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第79話
少年は画面のカーソルを動かす。
目は血走り、鼻血が出ていた。
画面を通して少年はアルファ相手にゲームをしていた。
領地の取り合いだ。
このゲームに負けた者が、その土地の支配権を手放す。
ゲームは複雑だった。
しかも、白面は広い領地を持っているからこそ、仕掛けられることも多い。
複数のゲームを同時にこなすこともしないといけない。
良くもまあ、白面はオメガと何日も番あっていたものだ。
攻撃されても、しばらくやり過ごせるトラップでも仕掛けていたのだろう。
だが、少年にはまだそれがわからない。
だが、やってみてわかったが、白面の死をひと月ふた月は隠せただろうが、組織に財産等を流す間はなかっただろう。
一週間で白面の持ち物全てはほかのアルファに奪われていただろう。
弱肉強食の世界なのだ。
アルファの世界は。
少年は複数方面に同時に攻撃をかける。
これはゲームだ。
しかし、奪われるものも、奪うものも本物なのだ。
下手すれば、現実の勝負、肉体での対決にまで持ち込まれる。
オメガの身体ではそれは難しい。
それだけは避けたい
だが、肉体での戦いでも実力者だった白面の名前はありがたい。
アルファ達はそれを避けてくる。
昔昔。
白面の日記によれば、センターでアルファにだけ教えられる歴史、アルファ達がこの世界にたどり着く前の話、アルファ達は現実で争いを続けて、奪い合って、
大切な雌と、世界そのものを失ってしまったらしい。
だから、アルファ達はゲームで全てを決めるのだ。
これなら、犠牲が少ない。
代理戦争だ。
だが、ゲームは複雑にややこしく。
少年の頭脳でも苛烈を極めた。
また鼻血が垂れた。
今、まだ若いアルファを撃破した。
当分襲ってこれないだろう。
しかし・・・このままでは。
白面の領地を守るだけだ精一杯だ。
これではだめだ。
これでは。
もっと支配力を高めて。
もっと、アルファ達の根源に迫れる地位までいかないと。
このゲーム自体。
このゲームそのものがどういうものなのかも知らなければ。
少年はデータを呼び出し、観測し、画面上の数値を確認する。
流れを読み、計算し、キーボードを使って指示をだす。
「やってらんねぇ!!ああくそっ!!」
怒鳴りながら。
タクを可愛がってやる暇もない。
だけど。
少年は諦めない。
この仮想世界でも、アルファを葬り去ってやる。
そして、気になることはある。
センターでアルファだけに与えられる歴史については白面は書いているが、センターで育った時の様子は何一つ書いていないのだ。
まるで幼少期がないかのように。
やはり。
気になる。
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