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第93話

  少年のオメガが両手で持っていた武器を片手に持ち替え、木の陰から何かを引きずりだしてくるのを、神鳥はポカンと見ていた。  さっぱりワケがわからなかったからだ。  だが、次の瞬間。  少年のオメガがひきずり出したものをみた瞬間。    神鳥は激高した。  羽の全てを逆立てて、嘴を大きく開いて吠えた。  それは許されるものではなかったからだ。  その華奢な身体からは思いもよらない力で引きずり出されたのは、ボロボロに殴られ、そして、見ているだけで犯されたとわかる・・・神鳥の愛しいオメガだった。  破かれた服。  むき出しの下半身。  孔からは誰かの精液がこぼれていた。  腫れた顔。  滲んだ血。  手足には擦り切れた傷がった。  縛られた後も。  縛られ何度も犯されたのだとわかった。  何度も何度も何度も。  おびただしい精液。  オメガも何度も何度もイカされたのだともわかった。  疑似性器の先から、まだ白濁を滴らせていたから。  人のオメガはそうしてきた。  いや、不必要に傷つけたりはしなかったけれど。  でも犯した。  泣いて嫌がるのを無理やりイカせて楽しんだ。  だが、それは「他人のもの」だからだ。  それを。  それを。  「自分のモノ」にされるのは許せなかった。  巨大な翼を広げた。  赤に青に黄に翼は燃え上がり  強い風を起こし、   瞬間瞬間に色を変える瞳は、怒りに赤にそまった  グギャアアアアアアア  グギャアアアアアアア  吠える声は山々に響き木々を揺らした。  怒るアルファは邪神のようだった。  実際に昔、世界を貪ったのだ。  人間ではない破壊神それがアルファなのだ。  だが、目の前の少年のようなオメガは全く動じなかった。  「殴って犯した。お前のオメガは旨かった」  少年は唇を曲げて笑ってさえみせた。  オメガがオメガを?  でも、それは事実だとわかった。  オメガの手や服は血と精液で汚れていて、それは確かに自分のオメガの匂いがした。  オメガがオメガを犯したのだ。  それも、神鳥のオメガだとわかっていて。  「今回はオメガの奪い合いだろ、とうせ勝つのは俺だからな、先にもらっただけだ」  少年は嘯いた。  もう神鳥にもわかった。  コイツは。  コイツが。  「俺が【白面】だ。勝った相手が全部奪えるのがアルファのゲームなら、白面に勝った俺が【白面】の存在を奪っても問題ないだろ」  少年は言った。  間違いない。  間違い。  このオメガは。  白面を殺して成り代わっていたのだ。  いつから?  多分、白面が急に戦法を変え始めた頃からだろう。  オメガがアルファに成り代わり、アルファ相手に勝っていたのだ。    オメガがアルファに。  だが、今はそんなことはどうでもいい。  このオメガは許されないことをした。  大事な大事な、オメガとのセックス以上に大事かもしれないアルファとの殺し合いの機会を奪った。  白面とやり合うことは、神鳥には大切なことで、神聖なことだった  そして、神鳥は自分のオメガが犯され、殴られるなと。  絶対に。  絶対に許せないことだった。   過去誰に抱かれてもいい。  過去誰を愛していても。  でも。  今は絶対に自分以外はゆるせない。    「殺す」  神鳥は宣言した。  犯して楽しむよりもまず、殺してしまいたかった。  死体を後で使うかもしれないが。  神鳥の翼が広げられた。  羽が舞う。  戦いが始まった。

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