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第95話

 神鳥は考える。  考える。  羽根で吹き飛ばすか?  神鳥の脚は鉤爪があり地面に身体を固定してくれる。  羽ばたきの風圧で少年を吹き飛ばす?  いや、刃物も大事なオメガも動いてしまって内臓が傷付いてしまう。  ならは、少しくらい傷付くのは仕方ないとして、瞬間で少年の頭を潰すか。    ダメだ。  オメガには臓器移植も輸血もできない。    オメガは他人の肉体からのものを一切受け付けないのだ。  傷からの感染さえ、命取りになる。  オメガを失うわけには行かなかった。  殺したアルファの身体にとりすがって泣いてるオメガを見た時から決めていた。  ここから先は自分のものだと。  このオメガはアルファを愛している。  その事実に胸を打たれたのだ。  あの時、オメガはアルファが殺される前から走り出していた。  殺されるのをとうにかして止めようとしたのだ。    無駄な考えだ。  だが、それに神鳥は感動した。  アルファが殺されたならオメガは泣く。  だってオメガの人生はアルファ次第。  不安と恐怖はあるだろう。  そりゃ泣くさ、そう神鳥は思う。  でも、殺したアルファを助けようなんて、考えるオメガを見たことはなかった。  このオメガは。  本当に。  アルファを愛しているのだ。  もう老いて小便を垂れ流すよう老猫を愛するこのオメガは、動けない役立たずになったアルファを自分の身に変えてでも守ろうとしたのだ。    欲しいと思った。  このオメガしかいなかった。  犯して貪ったのは確かに趣味の「他人のオメガ好き」なのは間違いない。  でも手元に老いて愛したのは、本当に欲しかったからだ。  その心が。  その愛が。  きっといつか自分を愛してくれると信じてきた。  それを疑ったことはない。  神鳥は強いアルファで。  深くこのオメガを愛しているのだから。  とにかく、オメガが死ぬような真似は少しでもするわけにはいかない。  だか、このままでもいけない。  早く病院に連れて行かねば。  オメガを診れる専門病院は少ないのだ。  飛行に耐えられるか?    引き離さないと。    仕方ない。  神鳥は喉を垂直に立てて、鮮やかな色の嘴を開いた。  くぃいぃぃいぃいいいいいい  きぃいぃぃいぃいいぃぃぃい  喉の奥から奇怪な音が迸る。  始まりは金属の擦れ合うような高い音がした。  そしてそれは高くなり、軋み、歪みその空間に響き  爆ぜた  音が脳に直接作用したのだ。  少年の目に世界が一瞬消失したように見えただろう。  「ん・・・」  少年が頭を振って、再び目を開けた時には、神鳥はその腕の中にオメガを抱き上げていた。  身体に長い刃を貫かせたまま。  「動くなよ。すぐに病院に連れて行ってやるから、少しだけ待ってろ。抜くな。下手に抜いたら出血したり、内臓を傷付けるから」   神鳥はオメガに優しく言った。     オメガが犯されたことはゆるせなかったが、それはオメガへの怒りではない。  神鳥はちゃんとオメガを愛しているので、オメガの身体を所有することだけにこだわるアルファ達とはわけが違うのだ。  他のアルファに犯されたからって、そのオメガを殺してしまうようなオメガ達と同じにしてもらったならこまる。  ただし、黄金。  あいつだけは別だ。  あれは他のアルファに自分のオメガが犯されるのが好きなだけの変態だ。  あれと同じなのは嫌すぎる。  こちらは愛、愛、なのだから。  「ちょっと待ってろ」  神鳥はオメガの額を撫でた。  これで終了。  後はあの少年をぶち殺して、引きちぎる。  死体を犯すのは止めよう。    可愛いオメガが見てる前ではさすがに他のオメガを犯すのは気が引けた。  それより。  それより。  早く病院に連れて行かねば。    地面にオメガを置いて、神鳥は立ち上がった。    神鳥は焦っていた。    早く早く、あの少年を殺さないと、と。  だから、反応できなかった。  少年はまだ頭をフラフラさせていたし、攻撃できるようにはみえなかった。  だから、神鳥は胸から何かが生えていて、それが刃だと気付くのに数秒かかった。  そして、神鳥を貫いたのは背中からだったから。  少年のいる方向からではなく。    だから神鳥は自分の胸からでてくる刃を不思議そうに眺めた。  信じられなかったのだ。  そして振り返った。  そこには愛しいオメガが立っていた。  自分を貫いていた刃を自分で抜き去って、それを使って背後から神鳥を刺しているオメガが立っていた。  「よくも、よくも、あの人を!!!!」  オメガは神鳥が殺したアルファの名前を叫んだ。  神鳥はポカンと口をあけた。  これはこれは。  少年が笑った。  「何でそのオメガが自分の味方だなんて思ってたんだ?」  少年の言葉が響いた。     

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