96 / 174
第96話
神鳥は自分のオメガを見つめた。
殴られ、腫れた顔。
犯された姿のまま、腹に穴さえ空いた姿。
それが神鳥を油断させるためだけにそうしたのだと分かった。
静かで、初めて犯した時でさえ、悲しみは見せても怒りは見せてこなかったその黒い、いつも伏せ目がちな瞳は。
見たことのない光で輝いていた。
そんなに深い色をしていたのか。
そんなに重く強く熱い色を。
それが、憎しみだと、神鳥は知る。
オレを刺すために、殴らせたのか。
オレを油断させるために、犯させたのか。
オレを殺すために、腹を刺させたのか。
そんなにも。
オレが殺したアルファを愛していたのか。
オレを騙して殺したいほどに。
身体を重ね、たくさんイカせて、甘やかして、自由にしてやり、なんでも与えて。
愛して。
愛して。
でも、まだずっとずっと、そのアルファを愛しているのか。
胸から生えた刃を見ながら神鳥はそう思った。
ああ。
ああ。
なんてこと。
「死ね!!」
オメガはさらに刃を押し込んできた。
胸から刃がまた伸びる。
神鳥は。
神鳥は。
笑った。
笑った。
たまらなかった。
楽しげな笑い声が山々に響く。
その声にオメガが怯えて、刃から手を離してしまう。
刃を胸からはやしたまま、貫かれたまま、神鳥はオメガと向き合った。
オメガはさっきまでの怒りを失い、崩れ落ちる。
胸を貫いたのに。
神鳥は笑っているのだ。
「やはり・・・お前だ、お前じゃないと!!」
神鳥は歓喜していた。
オメガを抱きしめようとして、自分を貫く刃が邪魔で、さっさと抜く。
少し血は流れるが、アルファは死なない。
アルファはベータやオメガとは違う。
刺される瞬間に内臓の位置くらい、自由に変えられる。
首などにある急所を瞬時にピンポイントに攻撃しない限り、アルファは殺すのは難しい。
銃火器でもアルファは殺せないのだ。
オメガは恐怖した。
刺した神鳥が自分を抱きしめてくるから。
殺されるのだと。
固く身体を強ばらせる。
だが、神鳥は甘くオメガの首筋を舌で甘く舐める。
愛しくて愛しくてたまらないように。
「お前は本当にあのアルファを愛してたんだな。アイツはお前を閉じ込めていたってのに。でも、なのに、オレを殺したいと思うほどアイツを愛している」
神鳥は感動していた。
このオメガだ。
このオメガしかいない。
本当にアルファを愛してくれるオメガだ。
必要で仕方ないからアルファを愛しているオメガじゃない。
自分を飼うようなアルファでさえ、自分を危険にさらしてまで愛してくれるオメガだ。
「ああ、いい。お前はいい。最高!!そうだ、そんなに風にオレを愛してくれ。愛するんだ。それでいい」
神鳥は満足していた。
オメガが愛を示したことに。
かつてのアルファに愛をしめしたオメガに感動していた。
さあ、後は。
オメガはそういう風に神鳥を愛するべきだ。
これから先はどうやってでも、オメガは神鳥をこんな風に愛さなければならない。
「愛せる・・・わけなんかないぃ・・・」
オメガの締め付けるような悲鳴など、聞かない。
そんな言葉はいらない。
オメガは死ぬまでに神鳥を愛するようになればいいのだ。
神鳥は嬉しくてたまらなかった。
本当にアルファを愛するオメガを自分は手に入れたのだ。
神鳥はもう、このオメガを抱いてやりたくて仕方なかった。
このオメガは死ぬまでには、神鳥を愛してくれる。
だって、神鳥はオメガを愛しているんだから。
神鳥はそれを疑わない。
アルファは自分を疑わない。
だって、アルファは完璧だから。
神鳥は完璧だから・・・。
「・・・・・・思ってた以上に、めでたい性格だったな、お前」
脱力したような声がした。
少年のオメガが頭を抑えていた。
頭痛がしているらしい。
15くらいか。
実は3つほど位しか年の変わらない神鳥と少年。
少年は目眩さえしていた
このアルファ、このクソガキオウムのアルファは。
今憎まれて殺されかけてても、そのうちいつか愛されると信じて疑わない究極の妄想愛の持ち主だった。
アルファは監禁、執着、嫉妬、などの狂愛が多いが、神鳥のは絶対的妄想愛だった。
オメガはいつか自分を愛するに違いない、と信じきっている。
少年は自分がタクに同じような感情を抱いていることは無視した。
タクが自分を愛しているに違いない、と勝手に決めつけていることは都合良く無視した。
「この付きまといのサイコ野郎!!」
神鳥にむかって、口にしていた。
神鳥は、抱きしめていた、オメガからそっと手を離した。
可愛がるのはまた後だ。
「お前は罰してやらないといけねーな」
神鳥は少年は許すつもりはなかった。
こっちのオメガは。
愛してないから。
神鳥のオメガを利用して、
唆し、
殴って、
犯して、
神鳥を殺すように仕向けたのだから。
ともだちにシェアしよう!