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第97話

 「殺すだけのつもりだったんだが。ヤる。お前は殺すまでヤる・・・」  神鳥は腹から血を流したオメガを邪魔にならないように横たえながら少年にむかって唸る。    オメガの顔色は真っ白だ。  裏切りがバレたのに、神鳥の反応が意外すぎて。  失敗して殺されなかったこと喜ぶよりも、どうやってでも逃げられないことを思い知らされた恐怖にオメガは打ちのめされている。  憎んでいても。   愛することを強要されるのだ。  いや違う。  憎しみさえなかったことにされるのだ。  愛する者を殺した憎い者に、愛され、自分がソイツを愛しているとして死ぬまで扱われるのだ。  勝手に憎むべきものの幸福の一部にされて。  奇怪な地獄が完成していた。  どんなに憎んでも憎しみさえ伝わらないことの悍ましさ。  憎しみさえふみにじられる  「お前は可愛い。本当に可愛い。ケガが治ったら、とことん抱いてやるからな・・・」  神鳥はそう言って、オメガの頬を離れ際に撫でた。  オメガは嗚咽した。  終わらないのだ。  憎い男に、イカされ抱かれ続ける日々は。    1ミリの憎しみさえ認めて貰えない毎日が。  自分を愛している者と決めつけられ、そうされることの絶望。  その指を嫌悪して鳥肌を立てても、快楽だけはこの身体に染み渡り、鳴いて鳴いて、溺れ続ける。  「嫌・・・嫌ぁ・・・」  そう泣くオメガの声さえ、神鳥は聞かないのだ。  「大丈夫すぐに元気になるから。お前はきっとオレを愛するようになる」  そう断言される、この絶望。  「嫌だ嫌だ・・・思い込みが激しいヤツって最悪だよな」  少年は肩をすくめる。  少年もタクに対して似たようなモノなのだが、少年も神鳥並みに思い込みが激しいので、自分のことは無視をする。  「嫌がってるヤツを抱くなんて、最悪だぞ」    眉をひそめて言う、少年の言葉は正しい。  でも、タクに関しては少年も(以下省略)  「お前なんかにゃわかんねーよ。オレ達には愛が有るんだよ、コイツがまだ自覚してないだけで」  神鳥は自信満々だ。  「それはお前、お前の思い込みじゃねーか。大体、一方的に『愛してる』って無理やり囲いこまれて、なんでそんなヤツを愛するんだよ。そんなヤツいねーよ」  少年は自分のこと以外では正しい判断が出来る。  「決まってるじゃねーか。だって相手はオレだぞ!!」  神鳥は胸を張った。  その言い方も態度も、少年のタクに対するモノと・・・(以下省略)  少年はその瞬間とてつもない嫌悪を覚えた。  これがいわゆる同族嫌悪、であることさえ少年は認めていない。  神鳥も。  少年も。  アルファとオメガではあっても。  同じ年頃で。   二人とも。  自分に絶対的に自信があり、とてつもなくワガママで、残酷で、狡猾。  思い込みが激しく、欲しいモノは自分のモノだと思い込む人格破綻者。  間違いなく。    似ていた。  「テメェはやり殺す」  「お前だけは、犯す」  そのふたつの声のどちらがどちらの言葉だったのかは。  あまり問題ではなかった。    

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