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第101話
神鳥は少年の首を引き抜こうとして、出来なかった。
少年の身体か地面に落ちた。
手に力が入らないのだ。
目眩がした。
動悸がする。
こんな異変は有り得ない。
アルファがこういう状態になることはない。
少年の毒、自分の番以外の身体を拒否する物質が、自分に回ったのかと思ったが、まだ少年の孔からの液体にまみれた陰茎はテラテラと光るだけで焼き切れる様子はない。
少年の体液が毒になっていない証拠だ。
だが、確かに。
膝をつく。
息が苦しい。
喉が腫れ上がるようだ。
これは。
これは。
アルファに効く毒などない。
あるとしたら・・・。
でも、少年の毒は完全に封じ込めた。
番以外のアルファを拒絶する、オメガの体内から作り出される毒は。
この毒は普通は微量で。
番以外の精子を殺して妊娠を阻害したり、番以外のフェロモンを無効にするだけのものだ。
普通は、こんなにならない。
この少年に殺されたアルファの検死を命じたのは【黄金アルファ】だけだった。
黄金だけは、アルファを殺すオメガに興味をもっていたのだ。
アルファは殺されるようなアルファに普通は関心など示さないのに。
黄金はこの毒の正体をしっていた。
少年はオメガの身体を改造して濃縮しているのだ。
拒否する物質を。
でも、この少年からの毒は効かないはず。
そのために黄金は神鳥に、解毒薬を持たせた。
少年の毒は番であるアルファ、黄金にはきかないからこそ、黄金の身体からつくった解毒薬を。
だが今。
毒は神鳥にまわっている。
じゃあ、この毒は。
「やっと毒が回った」
うずくまって泣いていた、愛しいオメガが立ち上がって神鳥の前に立つ。
神鳥は起き上がれない。
息もできない。
「毒が効かないかと思った。ボクは彼のような特異体質じゃないから。あなたを殺すには足りないかもしれないと【博士】が」
愛しいオメガは神鳥の前に跪く。
神鳥は、このオメガを貫いた刃で刺された。
刃にはオメガの血が付着していた。
愛しいオメガの血は、神鳥にとって猛毒になっていたのだ。
愛しいオメガは。
そう、愛しいオメガの番は神鳥ではないのだ。
殺したアルファがこのオメガの番。
神鳥を苦しめるこの毒は、このオメガの身体から生まれたものだったのだ。
「ああ、マジ効かないかと思って焦ったぜ」
少年も苦笑混じりで立ち上がる。
「テメェが黄金と『仲良し』なのはよーくよーく知ってる。黄金がそろそろ俺に何かを仕掛けてくると思ってたからな、保険にこの人にもちょっと身体を弄ってもらったんだよ。俺と違って、一時的にしかむりだし、毒が効くまで時間がかかったけどな。【博士】に苦情言わないとな。殺すまでの我慢とはいえ、正直、テメェに犯されるのは辛かったぜ」
少年は唇をつり上げて言った。
いつからだ?
いつからだ?
神鳥はオメガを自由にさせていた。
だから、気づかなかった。
オメガはいつの間にか【組織】(アルファはまともに相手にしてなかった)と繋がりを持っていたのだ。
「まだ死ぬには時間がかかるだろーよ。そろそろ、黄金の薬の利き目も切れるだろ。俺の毒で、嵌めてチンポ溶かしてやるよ!!」
少年が犯されたお返しに、神鳥に襲いかかろうとした。
それをオメガが止める。
「約束だったはずだ。この人はボクが殺すと」
静かなオメガの言葉に少年は渋々引き下がった。
神鳥は喉を押さえる。
腫れ上がり、苦しい。
毒はゆっくり全身にまわっていた。
愛しいオメガは神鳥に向かって手を伸ばす。
その手は。
とてもとても、優しい腕に神鳥にはみえた。
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