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第102話

 「ああ、今回は俺はあんたのサポートでしかない。神鳥はあんたの獲物だ。そう、約束だったな。あんたが神鳥を殺すんだ」  少年は恭しく、オメガにお辞儀した。  裸で、後ろの孔から精液を垂れ流しながら。  オメガは小さく微笑んだ。  自分達の可笑しさ。  奇妙さ。  グロテスクさ。  笑わずにはいられなかったのだ。  神鳥は差し出されたオメガの腕を掴んだ。  苦しかった。  ただ、本能的に掴んだ。  他に掴むものがなかったから。  神鳥に向けられるオメガの目は黒くて。  光っていて。  深い色をしていた。  神鳥の胸が苦しいのは、毒だけのせいだけじゃない。  初めて見た時と同じ、切なさのせいだ。  綺麗な人。  綺麗な人。  オレのモノにしたい。  切なさが毒よりも。  神鳥の胸を締め付ける。  「愛してない。愛したくない。あの人だって、愛したくなんかなかった。ボク達の愛を当たり前のように貪るあなた達アルファなんか。ボクの心をどうにでも出来ると思ってる、君なんか絶対に愛したくない」  オメガの言葉の意味は神鳥にはもう追えない。  苦しすぎて。  息が出来ない。  身体が動かない。  でも、必死でオメガの手を握る。  「君なんか嫌いだ。大嫌いだ。何でボクが君を愛するのが当たり前だなんて思えるの?なんで、ボクを自由にできると思えるの?・・・アルファだから?そうだよね、だから、そう・・・ボクはアルファなんか大嫌いだ」  オメガの言葉は辛辣なのに。  オメガは優しく神鳥の手を握っていた。  やんちゃな少年を諭す姉のように。  いや、年上の誰かに憧れる少年の想いを、困ったように諭す大人のように。    その目には憎しみはなかった。  オメガの目にあるのは。  悲しみだった。  神鳥は名前を呼ぼうとする。  美しい人の名前。  本来は番以外はオメガの名前を呼んではいけない。  だが、関係なかった。  番でなくても、このオメガは自分のモノだった。  神鳥にとって世界にただ一人の人だった。  アルファには自分しかいない。  親も兄弟もいない。  敵だけだ。  オメガだけが、全てを与えてくれる。    神鳥は愛した。  オメガが愛するモノ全てを。    オメガが見つめる世界全てを。  オメガが愛したアルファすら愛したのだ。  それがオメガを創ったのならと。  不思議だった。  神鳥は不思議だった。  殺される今でさえ。  愛しているということが。  「愛してないよ。愛してない。・・・愛したくなかったから」  愛するオメガは涙を流している。  綺麗な涙だ。  死んだあのアルファに向かってもこんな涙を流していた。  でも、神鳥は思う。  今、オレのために流す涙の方が綺麗だ。  それに満足した。  「お休み・・・可哀想な子。君を愛さなくて良かった。アルファを愛するのは・・・あまりに無意味で切ないから。お休み・・・可哀想な、可哀想な子・・・」  優しい声を聞きながら、神鳥は目を閉じた。  もう目覚めることはなかった。    「可哀想な子」  オメガはもう一度だけ言った。  アルファに飼われるオメガよりも。  支配しながら愛されたと願うアルファの方が。  アルファの方が哀れな存在なのかもしれない。  そうオメガはおもったのだった。

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