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第103話
神鳥の死体はそのままにはしなかった。
油をかけて焼いた。
いつもなら殺したアルファの死体はそのままにしておくが、一応白面として戦っていたわけだから。
性行為の途中でアルファを殺している謎のオメガとまだ結びつけられたくはなかった。
黄金は気付いているとしても。
アルファ達は他のアルファがどんな死に方をしようと気にも止めないが、オメガがアルファに成り代わっているのはゆるせないものはいるだろうから。
アルファは。
アルファであることに凄まじい誇りを持っているからだ。
「これから、どうする?」
少年はオメガに聞いた。
神鳥の綺麗な羽根は炎に包まれていく。
オメガは涙を流しながらそれを見ていた。
「なんとかするよ。抑制剤をありがとう」
オメガは泣きながら微笑んだ。
大量の抑制剤をオメガには渡した。
でも、無くなったら無くなったでこのオメガならどうにかして手に入れるだろう。
オメガは。
ベータよりも遥かに優秀なのだ。
「人に紛れて。隠れて。生きてみるよ」
オメガは言う。
「オメガなのを隠して?したくなったら、玩具で自分を慰めるだけでいいのか?」
少年は聞く。
セックスしたなら、オメガだとバレてしまう。
ベータの男性とオメガでは全く違うのだ。
孔を見られただけでもわかるし、その微かな隆起のあるいやらしい胸でもわかる。
オメガなのを隠して生きるということは、人間とセックスしないということだ。
少年には有り得ない。
オメガはセックスが大好きなのだ。
欲望自体は、玩具をつかった自慰でも十分だろうけれども。
「愛したくも愛されたくもないんだ。身体を重ねてしまえば。身体を重ねて愛されてしまえば、それでも何かが生まれてしまうだろ?・・・もう、嫌なんだ」
オメガは燃えて焦げる神鳥を見ながら言った。
憎んで憎んで。
殺して。
それでも。
憎みだけにはなれなかった、アルファ。
その肉体が燃えるのに、涙を止められない理由。
「そうか・・・」
少年は頷いた。
少年には理解できないけれど。
少年は黄金が死んだなら、殺したなら、心の底から喜ぶたろう。
死体の上でおどってやる。
そして、少年はタクが欲しい。
タク無しではいられない。
玩具なんかじゃ嫌だった。
でも。
わからなくても。
オメガの気持ちを尊重したいとは思った。
彼は一人で生きていく。
人に紛れて。
もう誰も愛さない。
「お兄さん!!」
暗い木々の中から花があらわれた。
猫を抱いている。
年老いた猫だ。
神鳥の屋敷から攫ってきたのだ。
少年の命令通りに。
その猫を花は少年の視線が命ずるままに、オメガへと渡した。
「 」
オメガは猫の名前を呼んで、抱きながら嗚咽した。
オメガが愛するものも。
オメガを愛するものも。
もうこの猫だけになってしまい、
もうすぐこの猫は死ぬのだろう。
そしてオメガは一人になる。
でもオメガはそれでいい、と。
もう、愛したくない。
愛されたくない、と。
孤独がオメガを癒やすのだろう。
アルファを愛した。
愛したくはなかったのに。
アルファを憎んだ。
でも憎しみだけではなかった。
もう、愛に疲れてしまったのだ。
オメガは穏やかな孤独を求めていた。
オメガは少年が与えた地味な服に身をつつみ、猫の入ったゲージを持ち、木々の中に消えていく。
二度と会うことはないだろう。
少年と花はそれを見送った。
少年も花も、アルファを愛さなかった。
だから。
オメガの気持ちは。
同じオメガであっても。
わからなかった。
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