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第107話
「アルファやオメガの存在は科学じゃ説明出来ない。誰もそれについては考えるのを放棄している。でも現実だ。だからこそ、アルファが神のように崇められる理由でもある」
少年はタクの髪を撫でながら言う。
タクに聞かせてるというよりは。
自分に向けて話しているようであった。
「神鳥の地位や領地まで手に入れたから、俺はこの国で【黄金】に続く地位を持つアルファになった。・・・動くぞ。アルファ達は自分達について解明してこなかった。だが、アルファはどこからやってきた?どうやって?それについて調べるべきだ。それが解れば、アルファを駆逐する手がかりになるはずだ」
少年の語る言葉はタクには夢物語に思えた。
何だか途方もない話だと。
だが、現実に少年は莫大な権力を握っていた。
それは全て。
アルファとは何かを知るために。
「アルファは力のあるもののみに価値を置いている。力のあるものに、自分達がどうやってここへ来たのかを残しているはずだ。それこそが力だから。そして人間に施した改造についても。それさえあれば、アルファはこの世界を棄ててまた新しい世界に移動できる」
少年は考えこんでいる。
少年は力あるアルファとしてアクセスできる場所全てから情報を探しているし、独自の研究機関もつくった。
同じ疑問を持つアルファもいないわけではない。
アルファには珍しい情報共有にさえ成功している。
「世界を移動し、他の世界の生きものを改造する術だ。それが分かれば・・・アルファを駆逐できる方法にたどり着けるはずだ。この世界にアルファを結びつけた方法があるならこの世界からアルファを切り離す方法もあるはずだ」
少年はそう信じている。
アルファを人類から切り離す。
そうすれば。
オメガは。
もうオメガではない。
強い性衝動を持つ、だが能力の高い人間になる。
むしろ。
オメガが世界を支配するかもしれない。
抑制剤は必要だが。
だが少年はそんなことはどうでも良かった。
アルファに代わる支配者にオメガがなるなんてこともどうでも良かった。
「俺はもう。アルファのためのモノじゃねぇ」
タクの首に腕を絡まらせながら、少年はささやく。
そう決めた。
そのつもりだ。
だが、身体はアルファを欲しがる。
神鳥が使った【黄金のアルファ】のフェロモンに少年の身体はたやすく蕩けた。
アルファの陰茎に死ぬほどよろこび、胎内に精液をはなたれることに歓喜した。
心とは別に。
オメガなのだ。
そう思い知らされた。
犯され生むためだけに作られた。
それが少年には気に入らなかった。
少年にはアルファなど要らないからだ。
黄金を殺すだけでは飽きたらない。
黄金を殺したところで、自分がオメガであることからのがれるわけではない。
犯されるために。
生むためだけに作られたモノだということから。
だが。
アルファがいなくなったなら。
この世界からアルファを切り離すことが出来たなら。
もう、オメガなどいない。
アルファのために存在する、オメガなどいない。
アルファがいるからこそのオメガなのだから。
人間、ベータとは違ったとしても。
少なくとも。
何かのために存在する必要などないのだ。
「お前が俺を怖がる必要なんかねーんだ。オメガに手を出すことをお前は怖がってるんだろ、タク」
少年にいわれて、タクは否定出来ない。
ベータがオメガに手をだすのは社会通念上許されていないのだ。
オメガは。
アルファのためのモノだから。
オメガを抱くベータなど。
殺されても仕方ないのだ。
きままにベータとセックスする少年や花のせいで感覚がおかしくなりそうだけど、社会通念上は、そう、なのだ。
オメガを抱いていいのは。
アルファだけ。
タクは確かに少年を抱くのがこわい。
少年が子供であることももちろん、オメガであることも、「良くない」とされてることだから。
「お前が俺を抱くのを怖がる理由なんで全部、俺が潰してやるから。お前は俺を安心して抱けばいい・・・」
タクの首筋を吸いながら囁く少年の声は甘い。
怯えながら。
でも、タクは少年を抱きしめる
タクは少年が1番怖い。
自分を好きなようにする。
めちゃくちゃにされてる。
でも。
タクが自分を愛するためになら、全てのアルファを駆逐しようとなどと言う少年が恐ろしくて。
でも。
そんなにも求められて。
オレなんて、何にもないのに。
何一つばっとしないベータなのに。
でも。
本当に欲しがられていることだけはわかるから。
少年にはタクの愛だけが(愛してると正気で言った覚えもないのだけど)支えなのはわかるから。
恐ろしいのに。
抱きしめたなら、少年は小さくて。
熱くて。
タクは怖くてふるえていても。
抱きしめることを止められなかった。
「タク。タク。愛してる」
少年が抱きしめられながら嬉しそうに笑う。
こわくて。
切なくて。
叫びたくなる。
この気持ちが何なのかを。
もうタクはわかっていた。
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