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第111話

花は闇におりたった。 空が穴のようだ。 日が暮れたせいで、何も見えない。 湿った土の匂い。 ヘルメットについたライトがなければ何も見えないだろう。 コケやあまり光を必要としないでもよさそうな背の低い草だけが生えているようだ。 花は土の上に横たわり、まずは手足を伸ばした。 壁面は途中から滑りやすいコケの生えたしめった岩に代わり、花の能力でも何度も死にかけた。 でも。 それでも花は笑う。 千里眼のアルファの花嫁になっていたのなら。 屋敷の中に閉じ込められていたのだ。 愛玩用のオメガとして。 それに比べたら、こちらの方がいい。 「お兄さん、人使い荒いよぉ」 でも花は少年に文句は言う。 息を調えて。 それから起き上がり歩き始めた。 お兄さんはここになにかがあるとおもっている。 でも、なにが? 闇しかない。 広い広い広場だ。 すり鉢状になった穴の底はかなり広いことだけはわかっていた。 「何を見つけりゃいいのかさえ聞いてないんだもんね」 花はため息をつきながら、それでも歩く。 五感を研ぎ澄ませる。 機械ではみつけられないモノを探すのだ。 アルファはここから出現した。 だが、ここは穴だ。 でも、何故穴が?。 アルファが来る前から穴が? それとも? アルファが現われて? それがきっかけで穴があいた? 氷が見えた気がした。 氷の固まりがぶつかってここに穴を。 宇宙からではない。 宇宙からあの大きさの氷の塊がぶつかったなら・・・こんな穴を空けるだけではすまない。 それでも巨大な氷がここに出現したのだ。 それが穴をつくった。 何故わかるのか? わかるに決まってる。 だって今。 花はそれを見ていた。 巨大な氷の中に閉じ込められたアルファ達を 。 穴の底に淡く光る、山のようなおおきさの氷。 透明な氷の中に浮かぶようにアルファはその中にいた。 まだ、この頃のアルファ達は人類の要素を持っていなかった。 人類の顔や手や足や胴体を。 だから。 当時のアルファなのだとわかった。 人類を取り込む前のアルファ。 最初のアルファ達なのだ。 氷漬けになり閉じ込められ、ここまで運ばれて来たのだ。 羽のある姿。 蛇の姿。 蟲の姿。 人類の姿がくわわる前のアルファの姿があった。 彼らが人間を改造して、オメガにし、犯したのだ。 その結果が人類の形も取り入れた、現在のアルファの姿だ。 まだ、獣や蟲や鳥そのものの多数のアルファ達が氷にはいってねむっていた。 花は確かにそれを見た。 ぼんやりと光かるその、巨大な氷に花は手を伸ばした。 幻覚かと思って。 氷は冷たく現実のように思えた。 これは昔の話なはずなのに。 氷が突然溶けだした。 そのスピードは不自然なほど早く。 中に閉じ込められていたアルファ達の身体は穴の底に溶けて流されていく。 無数のアルファの身体が、それこそ、何百ものアルファの身体が、氷から溶けだし、穴の底に横たえられていく。 花はそれをぼんやり見ていた。 これは。 過去? 思わず、近くに横たわりるアルファの肉体に触れてみた。 羽根のある、鳥と蛇のキメラみたいなアルファの肉体はあたたかだった。 花は気づく。 これが現実ならば。 もしもアルファが目覚めたならば。 襲われるのは自分だと。 番を失い、飢えたアルファ達が人類を犯し殺してまわったことは知っている。 そして、自分こそが彼らが求めるオメガなのだ。 フェロモンこそ出していなくても。 目覚めた彼等に。 貪られるのは・・・ それは明らかで、この数のアルファに襲われたなら、花は生きてはいられないだろう。 花は迷わなかった。 花は壁面へと走る。 そして、猛スピードで壁を登り始めた。 ここから逃げなければ。 穴からでなければ!! 花は必死だった。 穴の底で、アルファ達が息を吹き返していく。 でも彼らはまだぼんやりしている。 フェロモンも出ていない花に気付いていない。 花は必死で登った。 何かを見つけてこいと言われた穴の底でみつけたもののの意味はわからない。 でも。 これが始まりの瞬間なのはわかった。 穴の底で今と過去が繋がったのだ。 花は必死で上る。 数時間かけて降りた壁面を、半分の時間で。 爪が剥がれるのも厭わなかった。 アルファにつかまるわけにはいかない。 でも。 足下で蟲のうごめく音がした。 翼の羽ばたき、 が聞こえた。 羽の音。 翼か起こす風をたしかに花は感じた。 クキィクキィ 嬉しそうな獲物を見つけた声も。 花は振り返らなかった。 ただ、がむしゃらに登った。 それでも、肩を掠める鉤爪を感じ、肉が裂け、思わず手を離した。 アルファの巨大な鉤爪に捕まれ、穴の底に引きずりこまれ、犯され、殺されるのだ、花は覚悟した。 だが、花の腕を掴んだのはちがった。 タキだった。 穴の淵から身をのりだし、腕を伸ばして。 タキが話の腕をつかんでいた。 花は振り返る。 花を追ってきたアルファ達はもういなかった。 「花!!」 タキは花を必死で引き上げる。 花はもう、穴の出口まで上って来たのだ。 だが、アルファ達は消えてる。 でも。 花の肩には切り裂かれたような傷があり、そこから血が噴き出していた。 そして、タキの顔にも恐怖が刻まれていた。 タキも見たのだ。 あのアルファ達を。 だが。 今は穴は沈黙していた。 花を追って穴から出てくるアルファ達もいない。 「あれは?」 タキが聞く。 真っ白な顔で。 「多分お兄さんが見つけてこいっていったモノだとおもう」 そう答える花の顔も真っ白だった。

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