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第112話

帰ってきた花の話に少年は興奮した。 「動けない氷漬けのアルファ連中、それも始まりの連中がいたわけだろ、ソイツらが凍ってる間に殺してしまったら、それでアルファなんか最初からいなかったことになるだろ!! 」 少年は喜び勇んで、大量の爆薬を外国へ持ち出すことにし、ついでに嫌がるタクも無理やり連れて、飛行機をチャーターして行ってしまった。 「穴の底が過去に繋がってるなんて、何でそんなこに簡単に信じるの?!」 自分で報告しておきながら、自分で体験しておきながら信じられない花は、少年の後ろ姿にそう言ってしまった。 「アルファやオメガの存在の方がよっぽど信じられねー存在だろーが。羽根やら角やら脚がたくさんある化け物と底なしのセックスマシーンだぞ!!」 嫌がるタクを引きずりながら、少年は花に言った。 花は一理ある、そう思ってしまった。 「そんな化け物の巣にオレを連れて行くなぁ・・・」 引きずられ、泣くタクの言葉にも納得した。 だが。 結局、少年は大量の爆薬と、疲れきったタクと共に意気消沈して帰ってきた。 少年には花が視たモノは視えなかったらしい。 「いや、でも、初めのアルファを消し去ったらオメガであるあんたやアルファの子供のオレも消えるんじゃねーの?」 タキが言ったがその通りだ。 はじまりのアルファ達を殺すということは。 歴史を大きく変えてしまうことで。 そんなことが出来たなら、少年や花の存在もどうなってしまうか。 ただ、少年は花とは違うモノを穴の底で視たらしい。 少年はそれについて、何故か語ろうとしなかった。 そして少年は考えこんでいて・・・ 次に動いたのは、アルファのための【センター 】を探すことだった。 そう、アルファとオメガは生まれてすぐに、その両親から引き離され、それぞれセンターで育てられる。 オメガのセンターについては知られているが、アルファのセンターについては、アルファ達すら口にしようとしない。 まるで彼らは成人するまでの記憶がないかのように振舞う。 それは? 一体どういうことなのか。 少しずつ正気を取り戻してきている、タキの母親から聴取しても、あれほどちかくに自分を置いていた白面のアルファがそれでも自分の子供時代について話すのを聞いたことがないという。 「俺達はアルファが何かなのかを根本的に勘違いしていたのかもしれない」 少年は言った。 【組織】の中にも、そして花でも、その少年の言葉の意味を理解できる人間はいなかった。 アルファのセンターは、まだ力のないアルファを一網打尽にできる場所として、組織が探し続けてきた場所でもあった。 だが、今、少年は違う理由でセンターをさがしているようだった。 少年はセンターを見つけ出す。 白面のアルファの権限を限界までつかって。 だがやはり。 セキュリティは厳しく、破壊は無理で。 だが。 侵入だけなら。 そこに何があるのかだけは見ることは可能かもしれないということで、少年はアルファの【センター】 に侵入した。 【センター】は。 オメガの【センター】とはまったく違った。 アルファが何かなのかを少年は理解した。 子供達を養育する施設であるオメガの【センター】とは全くそこはちがった。 子供のアルファなど。 そこにはいなかった。 そして【センター】の秘密が保たれていた理由も。 養育施設なら、どうしても人手がいる。 大勢のベータ達が関わってくる必要がある。 アルファはアルファ相手であっても、他人の世話などしないからだ。 そして、アルファ達もセンターについて口にするはずだろう。 オメガ達がそうするように。 思い出として。 だが。 少年が侵入したセンターは、人間が住むようなところではなかった。 温度管理もされてない、締め切っただけの場所。 空調だけはうごいているようだったが、締め切られた中の暑さは異常だった。 アルファでも、こんなところは好まない。 倉庫のようだった。 清掃だけは清掃ロボットがいるようだったけれど。 少年は監視カメラの僅かな切り替えの時間と、死角を利用して移動していく。 少年でなければ無理だ。 花でも難しい。 カメラの動く音だけで判断しているのだ。 倉庫のような廊下と、それこそ、コンテナのような部屋がつづくだけの場所。 人の気配など一切。 なかった。 セキュリティだけは完璧な何もない倉庫。 そうとしか思えなかった。 だが、少年はあらかじめ手に入れていたコードをつかって部屋を1つ開けることに成功した。 少年はそこで見たものに絶句した。 それは予想を遥かに超えるものだった。 巨大な繭がそこにあった。 触れて見た。 柔らかくはなく、見た目に反して金属のような触感だった。 繭は2メートル程の横巾で。 そう、アルファの背たけほどの。 その繭の中で、何かが脈打っているのが透けて見えた。 それは、まだ小さい、コウモリのような羽をもつ何かのようなシルエットだった。 アルファだ。 直ぐに分かった。 繭の中でアルファが育っているのだ。 隠して持ち込んだナイフで繭を切りさこうとしてみた。 刃が立たない。 少年は流石に青ざめた。 アルファに子ども時代などないとさとったからだ。 アルファは繭の中で成長し、いきなり成人になるのだ。 だから。 センターの秘密は守られてきた。 限られた少人数のベータによって。 知るものが少ないほど秘密は守られやすい。 生まれてしばらくすれば、 アルファは繭になり、その中で成長するのだ。 アルファは子供として育つ必要がない。 アルファは。 ベータやオメガと違って、知識を本能として最初から得ているのだ。 やはり。 少年は確信を持った。 【そういうこと】なのだ。 でも、それでは。 少年は唇を噛んだ。 アルファを消し去る方法に少年がたどり着くことが出来ないということだ。

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