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第113話

「虫?」 「虫ってあの虫?」 「昆虫とかそういうの?」 花、タク、タキは納得がいかないと言った声をだす。 【組織】に説明する前に、少年はこの三人にだけ話をした。 花もタクもタキも、組織ではなく、少年の私兵あつかいになっている。 タキは花の所有物みたいなものだか、花は少年が絶対なので、タキも同じようなものだ 「根拠はない。だけど、間違いないだろう。アルファの本能は虫レベルだ」 少年は断言した。 「それは悪口?」 花が無邪気に言い放つ。 「違う。むしろ褒めてる。アルファ達は成人した時には学ばなくてもすべての知識がはいっている、もしくは、すぐにどんなのこともすぐに学べるように出来ているんだ。わかりやすく、虫を例えにたしただけだ」 少年は花の髪をなでながら言う。 タキが僅かに唇を歪めるのを見てタクは肩を竦める。 タキはまだ。 花を独占したくて、嫉妬をおさえられないのだ。 タクはもう天災のように少年を愛しているので、達観している。 少年がどこでどんなアルファを襲っていても気にしない。 どうせ、殺すし。 タキはまだそこにはいかないのだろう。 それに、花が抱いたり抱かれるのは殺す予定のアルファじゃなくて、生きてそこにいるベータだし。 気の毒に、とタクは思う。 「良くわからないなぁ、どういうこと?」 花は首を傾げる。 「虫には脳がない。でも、虫は本能だけで色んなことをやり遂げる。それこそ、死ぬまで。人間の思考よりも複雑なことも。本能が知識以上のものを与えているんだ。脳なんかに知識を貯えなくても、虫は何もかもを最初から持っているんだ。アルファも同じだ。アルファは育つことで学ぶ必要がない。成人した時にはもう、必要なものは分かっている」 アルファ達は繭から出た時には完成しているのだ。 必要な知識を全て得て。 どういうシステムだがわからないけれど。 だからアルファは本能に弱い。 オメガの誘惑に勝てない。 どんなに危険だとわかっていても。 彼らの本能は何よりもつよい。 だがそれは。 「おそらく、必要な知識は必要な時に与えられる」 そういうことなのだ。 少年が穴の底で見たもの。 花が【はじまり】をみたあの穴の底で、少年が見たのは【終わり】だった。 それは未来だった。 何があったのかわからない。 でもアルファ達はあの穴の底へ集まってきていた。 どれくらい先の未来なのか。 それとも未来ではないのか。 花がみた過去とは違い、何もかもが不確かな夢のようなあやふやさだった。 有り得る未来の1つ、そう少年は受け取った。 アルファ達はぼんやりとした顔で一人一人、穴の底に降りたってきていた。 羽根ではばたいて ヘビのようにのたうちながら 鍵爪で壁面をつかみながら 蟲のように沢山の脚で 巨大な孔の底へとアルファたちはあつまってきていた。 誰も少年に目をやらない。 そして、穴の底に次々と横たわる。 無数の彼らが横たわった後、アルファ達の身体から繭のようなものが表れ、絡み合い重なりあって、いく、 繭はやがて、透明な氷になり・・・、そう、花が視たアルファの氷漬けができあがった。 それは青く輝いて。 強く青く輝いて消えた。 アルファはどこかへ移動したのだ。 また新しい世界へと。 アルファが移動した未来はその時どうなっているのか。 オメガはどうなった? ベータはどうなった? 世界はどうなっているのか。 何もわからない。 そして、この未来が確定とは思えないない。 だが。 分かった。 アルファ達は。 その時がくれば勝手に集まり、去るのだ。 次の世界へと。 これがどれくらい先の未来なのかわからない。 でもそんな風にしてアルファ達は生きてきた。 1つの世界がダメになれば、違う世界に渡る。 その方法は。 最初からアルファ達の中にきざみ込まれているのだ。 だとしたら、アルファ達を追い払う方法は? 少年はまた手詰まりになった。 でも、だ。 「でも、何か条件が揃えば・・・アルファは自分からこの世界を棄てて出ていってくれるんだよな。なら、何かでそれを誤作動させられないかな。本当に世界を移動出来なくても、あの穴の底に眠りに向かうんだろ?虫が焔に飛び込んで焼かれて死ぬのも本能だろ?動かなくなったアルファなら、オレでも殺せる」 そう言ったのはタキで。 少年はそれは面白い、そうおもったのだ。

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