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第116話

「逃げてるわけにはいかねぇ」 少年は決めたのだった。 「俺の正体に気付いているのはアイツだけだ。そして、オレの毒が効かないのはアイツだけだ。このままアイツを放っておくわけにはいかねぇ、分かってる弱点をそのままにしておく理由はねぇ」 少年はテーブルの上に脚を投げだす。 タクと花とタキ、そして、組織の【医者】。 身内の「会議」だ。 医者は最近少年から離れない。 サポートための連絡役だと医者は言っているが少年はそれだけじゃないとおもっている。 【組織】からの監視だろうと少年は理解していた。 少年や花はアルファを殺せる存在だ。 だが、それはそれだけ危険な存在でもある。 アルファを殺すためには少年が必要だ。 だが。 もし、アルファがいなくなった時に組織はオメガを許すだろうか。 人間、ベータよりもはるかに優秀で、そして、人間を簡単に誘惑するオメガを、人間は許すだろうか。 ソイツはどうだろうな。 少年はそうおもっている。 だが。 今は組織も少年も。 互いに必要としている。 特に今回。 【黄金のアルファ】を殺すためには組織にも協力して貰わないといけない。 「お兄さんの毒も効かないし、正体もバレてるのにどうするの?」 花の質問はもっともだ。 今回が最大の難関になる。 タキは本格的にアルファ殺しに参加し始めた花とまた喧嘩したらしく、仏頂面なままそれでも参加している。 タキは花の性欲解消のための必需品だと少年は認識していたが、ベータにしては賢いし、おもったよりもいろいろ使える。 「白面のアルファ」の息子という立場は色々便利だ。 ホンモノの白面が表にでれない以上、タキには使い道がある。 だが、花の邪魔になるなら考えないとな、とは少年は思っている。 花のお気に入りだから殺すのはなんだが、何、花にも分からないように、タキをいたぶる方法なんていくらでもある。 花とは違うやり方で、タキをよがり狂わせてやれば一番はやいが、それは花が死ぬほど怒るから止めておく。 少年はなんといっても花が可愛いのだ。 でも、まあ、いくらでも。 タキなんか追い詰めようがある。 考えておこう。 少年はそう思った。 少年はタクと花以外の人間がどうならろうと知ったことではないのだ。 さて。 「確かに黄金を殺すのは難しい。アイツに効く毒はねぇし、さすかにアルファと正面きって戦ったって殺されるだけだ。だが、アイツを殺すためにアイツを狙う必要はねーよ」 クスクスと少年はわらった。 そのドス黒い笑顔に全員が引いた。 神鳥のときだって。 少年は神鳥のオメガを使ったのだった。 少年はこういうことが得意なのだ。 裏切らせたり、騙したり、が。 「ヤツのオメガとどう接触するか、だ。調べろ」 それは医者に命令した。 そして、タキに。 「親父の名代として、アルファ連中のとこに顔を出してこい、なんなら黄金にその可愛い顔をみせつけてこい」 アルファ同士はほとんど交流しないが、牽制という意味での社交のようなものはある。 番を飛び込め犯すことを優先して、白面は参加してこなかったが、ベータの子供が名代で参加することは、めずらしくはあってもないことじゃない。 「黄金がオメガを連れてたら、オメガと接触してみせろ」 少年はタキに命令した。 タキは嫌そうな顔をしたが引き受けるに決まってた。 花に後ろから穿たれながら、お願いされたら断れないだろう。 「ヤツのオメガを取り込む」 少年は言った。 かつての自分と同じ、黄金のアルファの番であるオメガ。 彼の存在が、黄金をたおす鍵になる。

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