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第117話
なんでオレが。
タクはもう何度そうおもったかも分からないことをまたおもった。
少年に出会ってからずっと、これをくりかえしてる。
タクは黄金アルファの屋敷にいた。
清掃業者として。
日常の清掃以外の特殊清掃。
アルファがベータを殺したりした場合などのための特殊清掃業者は重宝されている。
交通事で死ぬ人数よりは少ない程度でアルファはベータをころしているからだ。
タクはこの時点でもうかなりの現場をこなしていた。
なかなかハードな職場だったから。
アルファが思いのままに引き裂きながら犯したベータの男女(アルファは男性を基本好むが、犯すのは男性だけとは限らない)の死体を初めて見た時は吐いた。
思えばアルファの死体は見たことがあるが、ベータの死体は初めてだった。
吐きまくったが、それでも吐いた後に仕事をしてみせて、「ガッツがあるな!!」と期待の新人にされた。
「大概のヤツが辞めちまうのに、大したヤツだ。借金でもあんのか?」
と、この道何十年の爺さんに背中をたたかれ、タクは真っ白い顔のままうなづいてみせた。
「やめられない理由があるんですよ・・・」
タクはカサカサになった舌を動かしてやっと言った。
借金くらいだったら辞める。
こんな仕事なんかしてられねぇ。
アルファが戯れに砕いたベータの頭から飛び出した脳みそを拾い集めることなんかできるか。
飛び散った腸や、腸からはみ出た排泄物をゴミ袋にあつめるなんてできるか。
辞めないのは。
少年が怒るからだ。
性的にお仕置されてしまうからだ。
快感も過ぎると恐怖になることをタクは知っている。
「俺のためにやってくれるよな」
少年はタクが拒否するとは思いもしてなかった。
「花やタキの方が適任じゃないか?それか組織の優秀な人の方が」
タクは抗ってはみたのだ。
「タキは白面の息子だ。面がわれてる。花はオメガだ。アルファが見たらオメガとわかる。組織の連中はダメだ、死体に耐性がありすぎる。怪しまれる。お前なら、ちゃんとビビるし、怖がるし、怪しまれない」
少年はタク以外はいない、と言い切った。
ビビりでヘタレのベータが必要だ、と言われても全然嬉しくなかった。
「臆病で普通のベータじゃないと、この役はやれないんだよ、タク。やってくれるだろ、俺のために」
拒否権はなかった。
嫌って言ったら、あんなことやこんなことをされて、やるって言うまで責められるのだ。
許してお願い、何でもしますうっ、て泣き叫ぶまで。
なので、タクは現場を確実にこなし、特殊清掃の期待の新人になっていた。
今ではもうどんな死体を見ても冷静だ。
人間は何でも慣れると知った。
特殊清掃業者は少ない。
アルファの屋敷に入る以上、身辺調査などを得た業者でないといけないからだ。
タクは組織がきっちり身分を用意してある。
借金は抱えているが、単なるベータの若者として。
アルファ相手に盗難などを働く者はいないので、多少の犯罪歴や借金等は問題ない。
「組織」のようなテロリストとの繋がりだけが問題とされるが、タクの場合は組織に入っていたわけではないし、黄金によって監視はされていたが、黄金はその情報を国に渡していない。
第一タクはもう死んでいることになっているのだ。
そして、とうとう、黄金の屋敷に派遣されることになった。
これをタクは待っていたのだ。
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