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第120話

タキは冷や汗をかいている。 これは極めてめずらしいアルファの集りだ。 上位のアルファが集まることがある。 アルファの中にいるのはベータには辛い。 タキのように親がアルファであるものでも辛い。 普通のベータなら気を失うだろう。 冷や汗くらい仕方ない。 アルファの集会。 大概のことはアルファは権力のある方が力づくで意見を通すが、アルファだって話し合いをすることもあるのだ。 そう、例えば、今回はアルファの子ども達が通う学校についての話し合いだ。 端的にいえば、父母会だ。 アルファはその化け物めいた姿からは想像ができないが、意外にも子育てに熱心な者が多く、ベータである子供たちをとても可愛がっていて、大切に養育しているのだ。 それは。 タキも良く知ってた。 だって、白面は。 タキと弟のトキには、優しい父親だったのだ。 オメガである母も愛していたと言えるのかもしれない。 あれを愛していると言うのなら。 閉じ込めて、ずっと犯して、また閉じ込めて。 なにも見せない。 だれにもみせない。 子どもたちからさえ引き離した。 おかげで母は正気を失ったのだった。 救い出してからは、かなりしっかりする日も多くなってきているが。 父を殺して、母を救った。 後悔はしてない。 だが。 殺したくせに、それでもまだ父を愛してもいるのだ。 本当に勝手だとは思うけれど。 タキは父親の名代として参加した。 自分が通う学校の父母会に出るのはおかしいと思ったが、白面が自分の子供以外には会おうともしないで、自分のオメガを犯し続けていることは有名になっていたから、さほど驚かれるなかった。 タキは父親を殺す前から父親の名代をつとめている。 あくまでも、白面のメッセンジャーとして。 ベータとはいえ、美しいタキはアルファ達の欲望の的になりかねないが、白面の息子、上位のアルファの息子に手を出せるアルファはいない。 いるとしたら。 ただ1人だけだ。 タキは巨大で奇怪なアルファ達の中を悠然と歩く。 いや、そんなフリをする。 それなりの数のアルファがいる。 首都に屋敷をおいて、学校に子供を通わしているアルファ達だ。 領地で、家庭教師をつけているアルファも多いので、この国の子供のいるアルファがすべてくるわけではない。 スタッフ以外はベータはほとんどいない。 さすがにこんなアルファだらけの場所にオメガをつれてくるアルファもいないため、ほぼアルファばかりという異様な会場だった。 名門校なのでベータの父母も沢山いるはずだが、アルファの意見が最終決定になるから、最初から参加していない。 というより怖がってこない。 家庭というものを知らない、だからこそ意外にも悩んでいるアルファたちはこんな時にはベータの意見が聞きたいらしいのだが、こんな父母会、ベータにはごめんだろう。 それはいいとして。 でも、タキにはわからなかった。 「【黄金のアルファ】には子どもがいないだろ、奴のアルファは若すぎるし、あんたも産んでない。その以前のオメガ、つまり、あんたの前のオメガは、オメガを生んで、それ以来奴は子供をオメガに産ませてないって聞いてるぞ」 タキは少年に言ったのだ。 「なんで奴が父母会なんかに来るんだよ」 タキの疑問点は当然の疑問だった。 黄金は三人のオメガを番にした。 最初のオメガは若くして死んでいる。 出産のせいだと聞いている。 成人さえすれば、身体の耐久度の高いオメガはそう簡単に死ぬことはない。 肉体の耐久度ではアルファ以上なのだ。 だが、出産は、とくにアルファやオメガが産まれる時は、オメガは亡くなることもある。 アルファがまだ成人したばかりの幼いオメガには子供を産ませない理由はここにある。 失ってしまう可能性があるからだ。 黄金は最初の番に子供を産ませ、だがその子供はオメガで、結果、番は死んだ。 産まれた子供がオメガやアルファの場合、子供たちはセンターに送られ、アルファですらその後会うことはない。 奇妙なことに、アルファにとって子供と言えるのは、タキのようなベータの子供だけなのだ。 なので。 こんな父母会に黄金が来ることはない、そうタキは少年に言ったのだ。 まあ、その通りだった。 恐ろしい化け物達が、この日ばかりは普段の敵同士の対立を忘れて、真剣に「子供の好き嫌いなんだが」「どうしても勉強に集中しないんだ」等と小中高大学までの一貫校ならではの幅のひろい悩み相談をしているところに、子供のいないアルファである黄金がくるはずがない。 アルファは子育ては真剣だ。 子供達はアルファの親が死んだなら全ての特権を奪われる。 だからこそ、自分達が生きている間に出来るかぎりの教育をあたえてやりたい、親心なのだ。 「奴は自分のオメガを学校に通わそうとしている。そのため、絶対に参加する」 少年が冷たい声でタキに言ったことが、今でもタキは信じられない。 オメガを。 番を学校にかよわす? そりゃ、花は女子校に通っているが、それは身分を偽ってだ。 アルファがオメガを学校にやるなんて聞いたことがない。 「間違いない。だからお前は黄金に近付け。あえて、な。向こうもこちらのことは分かっているから気をつけつけろ」 少年はそう言って、黄金がこの集会に現れると断言したのだ。 まだタキはそれを信じられない。 そして、少年が氷のような目でタキを睨みつけ言ったことも忘れられない。 「俺がアイツのオメガだったことなど一度もない。2度と俺がアイツのオメガだった等と言うな」 その凍りついた言葉に、少年の地雷を踏み抜いたのだとタキは自覚したのだった。 アルファより怖かった。 でも、やはりタキは信じられない。 オメガを学校に通わすために、黄金がここに来る? そんな。 パーティ会場を如才なく挨拶してまわり、時ににあからさまな欲望の目に冷や汗をかきながら、タキは集会が始まるのを待っていた。 軽食等の交流の後、かなり本気の保護者会が始まるのだ。 アルファはまさに、文字通り、モンスターベアレントになりかねないのだ。 子供達への教育への熱意はベータ以上だ。 ベータを下にみているにも関わらず、アルファはベータである自分の子供達を驚くべきほどに可愛がる。 タキも知ってた。 知ってる。 知っているのだ・・・ そして、始まりを告げるアナウンスが流れた時、会場に現れたのは。 間違いなく。 黄金のアルファだった。

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