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第136話

花は願った。 自分の身体に。 もう一度、と。 一度出来たなら出来るはず、と。 そして、時間が止まる。 いや、ゆっくりになる。 花はゆっくりと伸びてくる巨大な腕から、それよりもわずかに速く動き、その腕を避ける。 白牛の全ての腕を躱した後、花はやはり、ゆっくりとしか動かない自分の腕を、今度は白牛の頭部へと伸ばした。 宙に浮いたまま、その両の手の平で白牛の両耳を撃つ。 牛の耳そのものの耳を。 花の白い手が白牛の両耳を打った瞬間、時間が戻った。 バァン たたく音が響いた。 ベータ相手だったらこれで鼓膜を破れるがそこまでは期待してない。 期待しているのは衝撃で耳の中にある三半規管を揺らすことだ。 分厚い骨格に守られた脳や肉体にダメージなど与えることは難しいが、振動で一時的に、耳にある三半規管を狂わすことは出来るはずだ。 白牛は驚愕の表情を浮かべていた。 捕まえたと確信したオメガが、腕をすり抜けて、さらに自分を攻撃してきたのだ。 だが、ダメージはない。 耳を打たれただけだ。 両手で。 大したことはない。 そう白牛は思った。 が、次の瞬間白牛は崩れ落ちていた。 身体が動かない。 立てない。 すぐに悟る。 オメガに耳の中にある三半規管を衝撃で、狂わさせられたから、バランスを保つことが出来ない。 だから立てないのだ。 あのオメガはそれを狙った。 崩れ落ちた白牛を尻目にオメガはさっさと逃げて行く。 速い。 白牛は舌打ちした。 だが逃がすつもりはなかった。

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