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第137話

花は逃げる。 走る。 とにかく逃げなければならない。 逃げてお兄さんのところにかえらないと。 この身体を届けないといけない。 そのために花は耐えたのだから。 花は速い。 ベータより遥かに速く、なによりその耐久力のある身体は止まることなく動くことができる。 アルファよりも長く動くことが可能だ。 だが。 花の耳はもう捕らえていた。 背後から迫る重い足音。 それは凄まじい速さで迫ってくる。 短い距離なら。 短時間なら。 アルファの方が圧倒的に速い。 200キロはある巨体がアスファルトを砕きながらやってくる。 捕まったなら終わりだ。 もう、花の脳は限界だ。 高速で使い続けた。 考えることも難しい。 ただただ本能だけで走るだけだ 逃げなければ。 花はそれだけを考える。 花は水の匂いに気づく。 ここは橋の上だ。 ならば。 花は何も考えずに橋から飛び降りた。 橋の高さも、川の深さも気にしなかった。 ただ、逃げたい一心で。 髪を指が掠めたのをかんじた。 掴まるところだったのだ。 花は水へと落ちていく。 だが、上を見て花は絶望する。 鬼のような形相の白牛も橋の欄干を破壊しながら、破片と共に落ちてくる。 まだ追ってくる。 水にしずむ。 綺麗とは言い難い水の底を泳ぐ。 暗い水の中で、白牛の目は効かない。 それだけが花には有利だ。 そして、長く息が続くのは・・・花の方だ。 水上にあがったなら、すぐに見つけられてしまう。 川底を息の限界までおよぎ、花は水面に上がった。 あえて川から海の方へ向かったのは街中よりも逃げやすいと思ったからだ。 花は水面で息を吸う。 もう限界だった。 花は河口に出ていた。 砂浜がみえる。 そこへむかった。 もう身体も頭も極限だ。 ねむかった。 やすみたかった、 だが、浜にやっと上がった花は、水飛沫をあげて泳いでくるものに気づいてしまう。 白牛だ。 どうやって? みえてないはずなのに。 砂の上で崩れ落ちそうになる身体で、それでも花は起き上がろうとした。 花は帰らなければならないのだ。 ヨロヨロと進む花。 だが、水飛沫が大きく上がった。 巨大な波のように。 花は波に飲まれる。 そして、真っ白な巨体が花の背後にたって いた。 花をその四本の腕でガッチリと掴んで。 「捕まえた」 白牛は嬉しげにわらった。 獲物を捕まえた猛獣の顔で。

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