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第140話
「花、大丈夫か!!」
浜の堤防の上から跳んで来たのは少年だった。
「お兄さん!!」
花はボロボロになった裸同然の姿で少年に向かって叫ぶ。
花が身につけているピアスは発信機が取り付けられている。
帰り予定のコースを取らなかったから、少年は異変を感じて花を迎えにきたのだろう。
そして、おそらく。
花は自分の髪を探った。
小さなピンが止められていた。
白牛は。
抱かれにいった時にこれを取り付けていたのだ。
そして、花を追ってきた。
殺すために。
自分の屋敷の外で殺さないといけなかった。
理由はわからないが。
花はまさか浮気が知られたくないという理由で、白牛が屋敷からはなれた場所で花を殺そうとしていたなんて考えつきもしなかった。
ただ、海に向かって投げ捨てた。
そして、花を抱き締めにきた少年に抱きついて、大声で泣いた。
もう片方の手に巨大なアルファの陰茎骨を握り締めているのは忘れて。
少年が笑った。
花が持っている陰茎骨と、砂浜に転がる白牛の死体を見て。
大声で笑った。
花は泣くのを止めて少年を見上げる。
「花。お前が証明したんだ。お前は自分から証明したんだ。俺達オメガは。オメガは、単にアルファに犯されるためだけに生まれた存在じゃないと。花、俺達は違う、違うんだよ、俺だけじゃなかった!!いいか、花、俺達オメガはアルファを殺せる存在なんだよ、花、俺達は・・・俺達は、アルファのものじゃなかったんだよ、最初から!!」
少年の熱狂に花は戸惑う。
理解できない。
だが、何か大切なことにたどり着いたことはわかった。
少年が花に頼んだのは実験だった。
少年は花に打ち明けた。
黄金のアルファの元にいた時、少年はいろんなアルファやベータとの性交を強いられた。
少年の中にあるアルファを殺す毒、それはそうやって作られたのかもしれない、と。
【組織】の【博士】による仮説では、オメガの番以外との受精やフェロモンを拒否する物質が、少年のアルファを殺す毒になっているのだろうということだった。
番のアルファ以外を殺す、アルファへの毒。
少年はこの毒が自分の中に作られるのは自分の特異体質のせいだと思っていた。
フェロモンを多量に出せるという得意体質のせいだと。
確かに、一時的にフェロモンの排出量を高めるように身体を調整してもらえば番のいるオメガなら、番以外に効くフェロモンを出せるのは実験済だ。
少年も身体を弄ってもらっているが、少年に関してはある程度までは任意でだせる。
任務の時にはさらに出せるようになっているが。
だが、【博士】は番をもう得てるのに、まだ番のいないオメガのフェロモンを出せることの方が説明がつかないと言っていたのだ。
こちらの方が特異すぎると。
少年は考えていた。
ずっと。
もしかしたら、【毒】自体は他のオメガでも作れるのかもしれない。
少年と同じように色んなアルファにベータに犯されたなら、オメガの身体はそれから守るために【毒】を出せるようになるのかもしれない。
少年はふりかえり、自分が毒を使えるようになったときを思い出した。
フェロモンや毒を多量に出せるようになったのは【組織】の【博士】による薬物改造だ。
だが、ここまで量を出さなくても、殺せていたのだ。
黄金から逃げた後、どこぞのアルファに捕まり、犯され、強く殺したいと願った時に。
相手は死んだのだ。
少年の、毒で。
少年の、殺意で。
沢山のアルファに犯される経験が、体内の拒否する物質を量産させ、アルファへの殺意が、物質を毒に変えるのではないか。
それは他のオメガでも、可能なのではないか。
それは本当に仮説だった。
それを花は実証した。
それはつまり。
オメガはアルファを殺せるものであるということの証明で。
オメガの殺意がアルファを殺すということで。
オメガはアルファに従うものではない、ということの証明だった。
アルファのためだけに存在する。
それが、そう信じられてきたものが崩れた瞬間だった。
少年は歓喜した。
閉じ込められていた鳥籠が開く。
オメガはアルファの持物ではなかった。
アルファを殺し得る存在なのだ。
「とりあえず、【白面】が【白牛】をたおしたってことでいくぞ」
少年は花を抱きしめながら、あちこちに電話をし始め、花は困ったように白牛の陰茎骨を握り締め、当惑し続けていた。
「花。ありがとう」
少年は、電話の後、花をしっかりと抱きしめた。
花は。
とにかく疲れてて。
陰茎骨を握りしめたまま、気絶したのだった。
少年は話を横抱きにし、花が握っているものを見る。
「ソイツはいいディルドじゃねーか、花!!」
少年はまた、大きな声で笑ったのだった。
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