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第141話
オメガはイライラしていた。
子供達はやっと寝た。
パパがお話ししてくれるのを楽しみにまっていたのに。
あのデカ牛は、子供達との約束を反故にしたのだ。
帰ってきたら 顔面を蹴りあげてやらないと。
オメガの蹴りはベータだったら死ぬが、アルファを殺せるものではない。
だが、痛い。
結構痛い。
戦闘モードに入ったアルファは痛みなど感じないが、番といる時のセーフモードで殴られたり蹴られたりすれば、しかも、オメガのバカ力でなら。
痛いのは痛いらしい。
痛いと本気で泣くからそうなんだろう。
オメガに珍しく、このオメガは体格に恵まれていた。
小柄で細身、中性的な身体つきが多いオメガには珍しく、185センチある高身長と、しっかりと発達した筋肉を持っていた。
褐色肌。
黒い濡れたように光る渦巻く髪。
大きな青い瞳。
女性的な儚い美しさではないけれど、オメガはとても美しい青年だった。
でも、この美しい青年が子供を2人を産んでいるオメガだとは、見ただけではわからないだろう。
白牛はセンターで番の候補として引き合わされたその日に、もう土下座してきた。
自分を選んでくれないかと。
まだ成人ばかりの若いアルファで、序列はまだまだ低かった。
センターで世話をしてくれていた、年老いたオメガからは忠告を受けていた。
出来るだけ強い、序列の高いアルファを選べ、と。
そのオメガは秘密を教えてくれた。
センターでは本来は教えてはもらえないこと。
番のアルファにオメガは死ぬまで懸命に仕えて幸せに生きる。
そうとしか教えてもらえないセンターでは。
大体はそれでいい。
アルファより先にオメガが死ぬことの方が多いからだ。
オメガは出産で良く死ぬ。
アルファを出産すると、普通は大体死ぬ。
これは妊婦がベータでもそうだ。
異形のアルファは母親を蝕みながら生まれてくる。
アルファを産むことは妊婦がベータだろうがオメガだろうが優先事項なので、母体より胎児が優先される。
80バーセント近く妊婦は死ぬ。
オメガを産む時も、妊婦がベータだとオメガを生むのになにも問題はないが、なぜか妊婦のオメガがオメガを出産すると死ぬ事が多い。
60パーセント近く死ぬ。
そして、番のオメガが死ぬことに耐えられないはずのアルファだが、出産だけは別なのだ。
死ぬ確率の高いアルファやオメガを妊娠しても、番に出産させる。
愛する番に子供を産んでもらう。
それが、それこそがアルファの喜びだからだ。
アルファには自分の子供が生まれることが何よりも大切なのだ。
だから、出産で死ぬオメガは多い。
そして、アルファより耐久性があり、快復力も高いオメガの寿命は、アルファ、ベータよりも短く、40年生きたらいい方なのだ。
だから、上手く行けば、オメガは死ぬまでアルファに仕えて、良いアルファを得たならその庇護の元、幸せに暮らせるだろう。
番のアルファより先に死ねるのは良いことだ。
センターの年老いたオメガはそう教えてくれた。
珍く70年も生きたオメガだった。
皺も白髪も、美しい、憂いに満ちたオメガだった。
アルファが戦いに負けて殺されたなら、その番がどうなるのか。
自分の番を殺したアルファに犯され、屋敷から追い出され、
まだ番を得ていないアルファが番を得るまでの代用品として【使われる】。
番を喪ったオメガに相手を選ぶ権利などない。
ただ、自分を所有するアルファに好きなように使われるだけだ。
所有者を変えながら。
番のいないオメガを大切にするアルファなどいない。
殺されることや虐待されることはない。
貴重なオメガだから。
だが。
番を失った先にあるものは悲惨だ。
だから。
年老いたオメガは忠告をしてくれた。
強いアルファを選べ。
殺されない番こそ、オメガには必要だと。
【白牛のアルファ】を選んだのは、序列はまだ低かったけれど、とにかくデカくて、強そうだったからだ。
頭を床に擦り付けて必死で「番になってくれ」と懇願されたからではない。
それに、求婚された相手の中では1番人間の形に近かった。
手足もないヘビみたいなアルファよりはずっとよかった。
でも、驚きはした。
まさか。
アルファが土下座、そこまでするとは。
嫁いだ初夜で、まだ幼かったオメガは泣き叫んだ。
デカいから選んだ相手だったが、本当に何もかもがデカかったからだ。
怖くて寝台から走って逃げた。
発情していたけど怖かった。
あんなモノ。
教えられ、勉強のために見せられた、作りもののペニスとは全く違って凶悪だったからだ。
その時だけは白牛は許してくれなかった。
屋敷の廊下で犯された。
小さなオメガは捕まった。
「愛してる」と喚かれて、その剣幕にまた泣いた。
小さな尻をもちあげられ。
まだ白牛も若いアルファだった。
身体の大きさだけは今と同じだが。
発情したオメガは初めてで、我慢など出来なかった。どうしても出来なかった、とあとで泣かれた。
巨大なもので、まだ何もかも知らない孔をいきなり奥まで貫かれ抉られたのだった。
オメガだからそれでも反応した。
でも、快楽も恐怖も痛みも、わけが分からなくて。
揺さぶられる
注がれ続けた。
白牛は狂ったように愛をさけんでいた。
「愛してる、お前だけだ、愛してる!!」
その怒声さえこわくて、ずっとずっと泣いていた。
腹の奥まで教えこまれ、自分で絞りとれるようになるまで容赦なく抱かれた。
求られていることだけは伝わった。
四本の腕がすがりついてきたから。
激しく突かれても、その腕は怯えたように抱きしめてきたから。
やっと終わって。
疲れ果てて。
眠って、目覚めて。
最初にしたのは、白牛の顔面を蹴り上げることだった。
「痛い・・・」
白牛は泣いた。
驚いたが泣いた。
アルファにとって番だけは別ということを知識 では知っていたが、ここまで、態度も顔付きも言葉つかいも番が相手だと、変わるとは思ってなかった。
いや、初対面から土下座してきた奴だった、そうオメガは思い直す。
「嫌い嫌い嫌い嫌い」
ガンガン蹴りあげた。
本当に怖かったから。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
アルファはされるがまま、土下座して、オメガのつま先に顔を擦り付けて謝ってきた。
泣いて怒って。
それを必死で宥められて。
それは、初夜からずっと今迄続いている。
だが、今回という今回は。
オメガは蹴るだけですませるつもりはなかった。
泣いて謝っても射精させない。
放置プレイだあの野郎!!
浮気はとっくに気付いている。
それでも、子供達との約束を忘れるなんてことは今までなかった。
自分への執着が無くなるわけでもないこともわかっている。
オメガは溜息をつく。
なぐって、蹴りあげる。
それしかなかった。
また、ため息をついて、居間のソファに沈みこんでいると、乱暴な足音と、大勢の声。
オメガは顔をあげた。
直ぐに悟る。
そういうことか。
もうこの家は白牛のものではないのだ。
「負けたんだな、お前」
オメガは白牛に言った。
聞こえないだろうが。
もう死んでいるだろうが。
「死なないと思って選んだのにな」
オメガは諦めたように目を閉じた。
ああ、これから現れるアルファは。
最後に子ども達に会わせてくれるだろうか?
それしか考えられなかった。
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