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第143話

「【白面】はオレが殺した。だから白面の名前も俺のモノだ。そして、【白牛】も俺が殺した。だからアンタも俺のモノだ」 少年は信じられないことを言った。 オメガが。 アルファを殺しただと? そんな馬鹿な。 オメガは信じられない。 少年はちいさく笑った 「信じられない、よな」 指を鳴らした。 私兵達が二人がかりでなにかをはこんでくる。 分厚い板にのせた何か、だ。 それは布に被われていた。 丁寧に床にその板は置かれた。 床で眠る、少女のようなオメガのかたわらに。 板は磨かれ、ニスを塗られた美しいものだった。 木目を綺麗に浮びあがらせて、甘く光っている。 それに「何か」がのせられ、その上に布が被せてあるので、「なにが」載っているのかはわからない。 その布も美しい刺繍を施された美しいモノだった。 大切で貴重なモノが載せられている。 そういうあつかいなのはわかった。 何? 大きなモノだ。 2つの尖ったなにががある。 布の上からでもわかる。 「作法に従った。勝ったアルファがする通り。悪く思わないでくれ」 少年はすまなそうに言った。 そして、布に手をかけた。 それを取るな。 取らないでくれ。 オメガはそう思った。 でも、少年はその布を取り除いた。 2つのとがったものは巨大な角だった。 大きな牛の。 頭。 白牛のアルファの切り落とされた頭部だった。 白牛の真っ白な頭。 オメガの前ではいつも細められていた金色の目は、カッと見開かれ、苦しかったのか、口は大きくひらいて苦悶の表情を浮べたままだった。 「アルファの作法に従った。お前の主の首を持参した。この屋敷も、お前も、俺のものだ」 少年は気の毒そうに言った。 オメガは、 オメガは、 泣いていた。 でも自分ではそれが分からなかった。 そして、気付いたなら白牛の首を抱き上げていた。 「馬鹿が!!このバカ牛!!死なねぇと思ったから、てめぇを選んだんたろーが!!」 罵った。 泣いていた。 苦しかった。 いや、ずった苦しかった。 出会ったときから苦しかった。 「死んだお前になんの価値があるんだよ、この浮気ばかりするクソ牛が!!」 オメガは叫んだ。 アルファの浮気がどういう意味かオメガは良くわかっていた。 ベータの死。 もしくはオメガを物として踏みにじること。 白牛はその姿以上にバケモノだった。 醜悪な。 自分の番になら蹴られようと、罵られようとも、何でもする白牛は、番とその子供以外には恐ろしいバケモノでしかないと、オメガは知っていた。 それを嫌悪していた。 そんな生きものから逃げることも出来ず、その生きものと子まで成したことに、いくら子供達が可愛くても、苦しまないわけではなかった。 だけど。 だけど。 どんなに顔面を蹴り上げようと、必死で縋ってくる姿、オメガの笑顔1つで何でもするあの姿。 すべてを拒否することなんて出来なかった。 子供達の優しい父親だった。 異形のバケモノは、それでも。 家族だった。 愛? 愛になんかなれるわけがない。 生きるために選んだだけだ。 だけど。 だけど 「バカ牛!!てめぇにもう・・・価値なんてねぇ」 そうののしるオメガの言葉にはもう、力はなかった。 でも。 オメガは安堵していた。 もう、【浮気】はない。 それは確かに。 喜びではあった。 やっとこれで、 アルファの嘘は消えた。 「お前だけだ」その言葉は本当になった。 やっと。 やっと。 その姿を少年は複雑な顔で見ていた。 アルファの愛など愛ではない。 だがオメガのこれは何なのだ? 少年にはわからない。 少年には、憎しみしかないから。 すすり泣きながらオメガは白牛の頭を膝に載せる いつもそうやって膝枕していたように。 そのオメガに少年は言った。 「世界を変えたいんだ。」 と。

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