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第144話

「愛しているよ」 何時までも終わらないようなキスの後、黄金のアルファは言った。 「知ってる」 番が笑った。 明るい茶色の髪、金色の瞳。 ああなんて可愛い。 腕の中に閉じ込めた。 「私をなんで選んでくれた?」 何回でも聞きたい。 何度も聞いたけれども。 だから聞く。 「目が合った時にもう分かった。あなたをずっと待っていた」 番の言葉は何よりも甘い。 金色の瞳は蜂蜜のよう。 ピンクの唇は艶やかな果物みたいで、また貪らずにはいられない。 「愛してる」 心から言う。 黄金は思う。 何をしてやればいい? この愛しい番のために。 世界でも何でも捧げたい。 出会って初めて、世界に自分が1人じゃないと知った。 生きていたいと思った。 色のない世界に【黄金のアルファ】は目覚めた。 アルファは赤ん坊として生まれるが、すぐに繭になる。 そして、10数年を経て、成人となり、繭を破って出てくる。 必要な知識は繭の中で得ている。 その仕組みについて、アルファ達自身が良く分かっていない。 最低限のチェックをアルファ育成センターで受けた後、この世界に放たれる。 大体がすぐに死ぬ。 アルファ達が新人狩りに来るからだ。 弱肉強食なのだ。 自分達もそうやって生き残ったからこそ。 そこで、生き残って、襲ってきたアルファを返り討ちにするところから、アルファの人生は始まるのだ。 黄金もそう。 返り討ちにして、屋敷とそのアルファのオメガを手に入れた。 屋敷はありがたく頂いたが、オメガには手を触れなかった。 諦めたようにオメガは黄金の前で膝を付き、横たわりさえしたが、そうしなかった。 身体は反応した。 若い身体は生まれて初めみるオメガに反応したし、見かけた美味そうなベータでも反応はした。 だが。 凄まじい飢餓感に囚われながらも、黄金はそうしなかった。 苦しむ黄金にオメガは驚いた。 構わないのだ。 オメガはそういうものなのだから。 そう言いさえした。 自分でもわからない。 だが、黄金はそうしたくなかった。 自分でもわからないけれど。 飢餓感は凄まじく、自分の腕の肉に歯をくいこませて噛み締めてまで耐える黄金に、オメガは言った。 抑制剤を、と。 オメガのものが効くかわからないけれどさ、と。 アルファ用の抑制剤などない。 アルファには必要ないからだ。 アルファは好きな時に犯せばいいのだ、誰であれ。 黄金はオメガの抑制剤を3倍の量、打った。 驚くべきことに抑制剤は効いた。 そのオメガは黄金が自ら歯を立てた腕の治療をしてくれて、まだ世界を知らない黄金に知識を与えてくれた。 そして、黄金が許したから、子供と共に出ていった。 オメガの身分を隠して、子供を見守りたい、と。 番のアルファを殺した黄金に何度も礼を言いながら。 「あなたの番になるオメガは幸せですね」 羨ましそうにオメガは言った。 番。 その言葉に何も感じなかった。 番。 自分にも誰がいるのだろうか。 欲しいとも思わなかった。 自分はらしくないアルファだ。 自分を殺しに来たアルファさえ、殺したいとは思わなかった。 殺しに来たから殺しただけだ。 死にたくはないが、とりたてて生きたいわけでもない。 別に何も。 何もなかった。 それからも、殺しにこられたから殺しただけだ。 まだ若いアルファに勝負を迫るアルファは多かった。 だが、殺しにきたら殺したし、権力ゲームなら打ち負かした。 それだけの日々。 肉体の欲望はあった だが、 オメガのための抑制剤を使えば、耐え難い欲望は収まった。 自分で慰める位ですむ。 こんなことをしているアルファは自分くらいだと分かってはいたが、でも。 ベータを犯して楽しみ殺したいとも思わなかったし、番を失ったオメガを犯したいとも思わなかったし、 オメガのセンターに番を得に行こうとも思わなかった。 必要なら闘った。 強い。 強いと恐れられながら、でも、そんなことは黄金にはどうでも良かった。 アルファが何よりも愛する、セックスよりももしかしたら愛するかもしれない戦いにも、まったく興味がなかった。 殺されないために殺しただけだ。 ある日、出かけた首都でアルファを見かけた。 首都は領地から出てきているアルファが良くいるので、見かけること自体は不思議ではない。 一応中立地帯なので、停戦もしている。 だが、そのアルファは裸体をさらし、公道で誰かを組み敷いていた。 ベータ達はそれを遠巻きに見ている。 止めることなどできない。 アルファのすることは絶対なのだ。 ベータを犯し殺しているのだろうか 不快だった。 だが不快なだけだった。 遠巻きに見て何もしようとしないベータ達も嫌いだった。 諦めきったあの顔。 それどころか、犠牲を諦めさえすれば幸せになれるのだと、アルファの支配を喜んでいる奴隷根性。 少し位殺されたところで、アルファ程素晴らしく世界を支配してくれる者はいないのだから、文句を言うべきじゃない。 天災や、病気などでもっとたくさん死ぬことがあるし、アルファのおかげで戦争などがなくなったのだから。 そうベータ達は納得して優秀なアルファに支配されることを望む。 そんなベータには虫唾が走る。 だが、車から降りたのは、チラリと見えた犯されている相手の手首に見知ったものがあったからだ。 アルファは、オメガに自分の紋章を刻む。 その手首に刻まれた紋章。 その紋章を知っていた。 だから、車をおりた。 逃がしたオメガのものだった。 初めて殺したアルファの番。 抑制剤を打ってくれたオメガだった。 オメガは瀕死だった。 普通は、アルファはオメガを殺さない。 オメガは貴重だからだ。 オメガも抵抗しない。 殺されることはないと分かっているからだ。 だが、このオメガは抵抗したらしい。 それは有り得ないことだった。 オメガがアルファに抵抗するなんて。 ベータに紛れて生きていたが、アルファにたまたま見つかってしまったのだろう。 アルファが出歩くことのある首都ではなく、どこか地方にでも行けば良かったのに。 アルファに出会すこともなく、ひっそり生きられたはずだ。 ベータを欺くのは、オメガなら簡単なはずだ。 でもそうしなかった。 その理由もわかっていた。 子供達の。 子供達の寄宿舎が近くにあるからだ。 アルファの子供達。 親が死んだなら、寄宿舎に放りこまれる。 特権は奪われるが、仮にもアルファの子供達なのだ、成人するまでは大切には扱われる。 そこから先の人生は自分しだいだ。 アルファは実力の無いものに厳しい。 子供達の近くで。 子供達を見守り、なんならこっそり会っていたのかもしれない。 でも、オメガは町中でアルファに見つかってしまったのだろう。 所有者がいないオメガはアルファのものだ。 アルファ全体の。 連れて帰ろうとしたのか、一時的にたのしむつもりだったのか。 わからないが、アルファはオメガを言いなりにしようとして、抵抗されたのだ。 オメガの抵抗など有り得ない。 オメガはアルファのモノなのだ。 オメガなら諦めるのだ。 だから。 オメガはアルファに殺されかけていた。 瀕死の身体を犯されていた。 アルファの顔には傷があったし、鼻から血さえながしていた。 オメガがアルファ相手に傷さえつけたのだ。 抵抗されて逆上したのだろう、その結果オメガは頭蓋が割れて、脳を露出しながら、アルファに犯されていた。 耐久性ではアルファ以上であるオメガはそれでも喘いで感じていた。 感じて快楽を得れるのに、何故そこまてして抵抗したのか。 オメガならそれなりに大切に扱われる。 どのアルファでもまあ、性行為はするだろうが、粗略には扱われないはずだ。 何故抵抗したのか。 黄金にはわからなかった。 アルファは薄緑色の肌をした、 昆虫タイプのアルファで。 6本の脚と、羽根をもっていた。 鋏のような顎と。 アルファにしてはそれほど大きくはないが、蟲タイプのアルファは弱くはない。 唸り声をあげて、死にかけたオメガを犯していた。 黄金はゆっくりそこに近づいた。 冷たい目でアルファを見下ろした。 死にかけたオメガが、黄金の顔をみた。 オメガは少し微笑んだ。 黄金に向かって。 黄金は。 蟲型のアルファを殺すのに躊躇はなかった。 オメガとしているアルファを殺すのは褒められたものではないが、不意打ちだろうが、あっさり殺されるアルファの方が笑いものなのだ。

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