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第145話

「二度も助けていただいて・・・」 オメガは丁寧に礼を言った。 「助けてなどがいない。あの時も、何もしなかっただけだし、今だってお前はこれから死ぬ」 正直に黄金は言った。 飛蝗アルファの死体はその辺に投げ出したままだった。 助けたつもりなどない。 あの時はしたくなかっただけだし、今回だってアルファが不快だったから殺しただけだ。 「誰のものでもないことは。とても素晴らしかったのですよ。それはあなたがくれたものです」 夢見るようにオメガは言った。 番と過ごした日々よりも、隠れて過ごした日々が素晴らしかったと。 「誰のものでもなかったから。思い出の中のあの人をやっと愛することができたのですよ」 オメガは皮肉っぽく笑った。 「あなたの番は幸せですね。本当にあなたを愛せる。生きている内に」 そう言って微笑み、オメガは死んだ。 番。 番。 ふと気になっただけだ。 くだらないとは思ったけれど、どれだけ下らないものかを確かめたくて。 次の日、黄金はオメガのセンターに行ったのだ。 見に行くだけの、つもりだった。 そしてそこで。 彼を見つけた。 いや、彼に見つけられてしまった。 センターで、自分を品定めされてうんざりした。 オメガ達にしてみれば、自分の一生を決める決断だ。 アルファは何度かオメガを娶ることはある。 オメガはアルファより死ぬことが多いから。 だが、オメガには1度だけの選択だ。 生涯ただ、1度だけの。 吟味して決める。 当然と言えば当然だが。 数名の番候補の発情期を迎えたばかりの幼いオメガに引き合わされたが、もう黄金は飽きていた。 帰ろうとおもった。 その時だった。 走ってきた。 面会室という性質上、ガラスでどこからもよく見える部屋の中だから、はっきり見えた。 センターの廊下を勢いよく走ってきて、面会室の中にかけこんでくる。 「あなたがいい!!あなただ!!」 胸の中にいきなり飛びこんできた。 まるで鳥だ。 胸に飛びこんでくる鳥がいるのだとしたら。 「何処にも行きたくないって言ってたんだけど、あなたならいい。あなたがいい。俺のだ」 宣言された。 呆気にとられた。 明るい茶色の髪と、金色の瞳。 柔らかそうなピンクの唇。 でも、そんな可愛らしい外見よりも、ふてぶてしさに度肝を抜かれた。 オメガと言うには。 あまりにも傲慢で驚いた。 どんなオメガとも違っていた。 どんなベータとも、アルファとも。 アルファですら、番になってくれと懇願するのだ。 膝をついて申込む。 「俺のアルファだ。俺だけの」 宣言された。 笑った。 笑ってしまった。 笑ったことなんかなかったのに。 「そうなんだろう。君が言うなら」 首にすがりついてくる少年を抱きしめた。 世界に色がついた。 光が溢れた。 音が意味を持った。 それが。 恋と知った。 そうやって始まったのだった。

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