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第148話
「子供」
黄金は狼狽した.
予想していなかった事態だった。
抑制剤を用意してなかった日はなかったはずなのに。
毎日、飲むタイプの抑制剤は用意してきた。
キツくはない、妊娠は抑えられる程度の。
あれから数年、少年は綺麗な青年となった。
快活で傲慢で。
黄金の世界の全てだ。
「欲しかったから飲んでなかったんだよ」
ケロリと番に言われて絶句した。
そう言えばひどく乱れたことが。
抑制剤を飲んでなかったのか。
どうりで。
そういうことは相談して欲しい
勝手に決めないで欲しいとはおもうが、黄金は青年のモノなのだ。
仕方ない。
「アルファやオメガを妊娠してたらどうするんだ。生命にかかわるんだぞ」
それでも黄金は言った。
自分の子供を産ませたがるアルファ達とは違い、黄金は恐れた。
オメガが出産に耐えられないことを。
オメガの顔が曇った。
黄金は怯える。
「アルファなのか!!アルファを妊娠したのか!!」
アルファは妊婦のほとんどを殺す。
オメガがアルファを産むケースは実は少なく、アルファはベータから産まれることが多いのだが、アルファはほぼ母親を殺して産まれてくる。
「アルファじゃねーよ。心配すんな、それにまだちゃんとした診察受けてもいねーし」
青年は平然としていたが、何かおかしかった。
でも、嬉しそうにまだ子供が入っているとは思えない腹を撫でた。
「俺とお前の子だ!!」
そう言って笑った。
その笑顔は眩しいほどで。
黄金は青年を抱きしめた。
お腹の子供ごと。
番の金の目と、茶の髪を持つ子供はきっと可愛いだろう。
番程ではなくても、きっと愛するだろう。
だって番の一部なのだ。
黄金はそうおもった。
「俺、家族が欲しかったんだ」
青年は言った。
そうか、そう黄金は頷いた。
お前が欲しがるならなんでも・・・。
そうとしか考えられない。
番に似た子供ならきっと。
きっと。
自分も愛せるはずだ。
だが。
番は決して黄金が自分を疑わないことをいいことをいいことに、隠していたのだ。
自分が何を妊娠しているのか。
番が妊娠していたのは、オメガだった。オメガがオメガを妊娠することは極めて珍しい。
番の胎内にはオメガがいた。
オメガがオメガを産むときにのみ、出産の死亡率は跳ね上がる。
ベータならば、オメガを産むのはベータと変わらない低度の危険度なのだが、オメガがオメガを産む時は半数以上の母体が死亡する。
オメガだということを隠したのは、青年は自分の子供を守りたかったからだ。
子供の父親は迷いなく胎内の子供を殺すからだ。
青年は番ではなく、母親になった。
自分の番から、子供をまもったのだった。
そう。
生命をかけて。
黄金の愛しい番は死んだ。
オメガの子供を産んだ後。
黄金の世界が終わった瞬間だった。
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