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第149話

産まれた子供は連れて行かれた。 オメガだから。 産まれたばかりのオメガは弱い。 ベータやアルファ以上の肉体の耐久性を誇るオメガだが、幼児期まではとても弱い。 センターに集められる理由の一つに、徹底的な管理が必要だからというのもあるのだ。 黄金は赤ん坊をちらりと見ただけだった。 慌てて連れて行かれたから、赤ん坊を救うために。 赤ん坊は生まれたばかりなのに目を開いていた。 金色の瞳だった。 愛しい番はもう死んでいた。 死ぬつもりなんかなかっただろう。 生きて子供を抱いて、「心配させたな」とでも言うつもりだったのだ。 生まれた子供はすぐに取り上げられると決まっているのに。 いや、番が生きていたなら構わなかった。 センターになんとしてでも連れていかせないで、この邸でその赤ん坊が育ち盛りきらないで死んでも構わなかった。 番が手放したくないというのなら。 そうした。 そう、オメガはこの社会の財産だ。 アルファとオメガが産まれることは、母体よりも優先される。 母体がベータだったなら、母体よりも胎内のアルファやオメガの生命が優先される。 母体がオメガでも、それはそうだ。 それが社会の優先順位だ。 黄金にはそんなことはどうでも良かった。 母体を優先させろ、と医者たちに言ってきた。 この頃には黄金はかなり上位の序列のアルファだった。 それなりの実力者だった。 だが。 医者達は赤ん坊を優先させた。 黄金の命令よりも。 通常通りに。 それが社会の習わしだったからだ。 【そうは言って】も、母体より子供を優先させるものだからだ、アルファは。 母体よりも子どもが大切なものだからだ、アルファは。 ふつうなら。 結果。 穏やかな黄金が鬼となった。 いくら番の望みだったのだと、言い訳されても許さなかった。 番の望みじゃなかったとしてもそうしただろうと分かっていたからだ。 より若い、より沢山子供を生める可能性の高いオメガを助ける方が生産性が高いからだ。 生き残ってももう子供は望めそうもないオメガを助けるよりは。 この社会。 優れたアルファが治めるこの社会のためにより良い選択をしただけだ。 医師達の哀願の向こうにそれが見えたから。 首を引きちぎられ、みんな死んだ。 医者を止めなかった看護士達も。 赤ん坊がいたら赤ん坊も殺したかもしれない。 番を殺したから。 もう連れ去られていたから。 追いかけてまで殺すことはなかったけれど。 世界が終わった場所で黄金は泣いた。 殺した沢山の死体の中で、黄金はいとしい番の身体を抱いた。 抱くしかなかった。 もう、魂はなく、ぬけがらだけでも、これは愛しい番だ。 ただの肉になってしまったと、理解するまで時間がかかった。 美しかった死体は、黄金によって無残に貫かれ引き裂かれてしまった。 死体になったオメガは、生きてる身体より遥かに脆い。 そう知った。 美しい真っ青な単眼から黄金は血の涙を流した。 クウォオオオオオ クウォオオオオオ 獣が哭いた。 この世界でたった一人になった獣が泣いていた。 何も何も残っていなかった

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