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第155話
「うるせぇ、泣き止ませろ!!」
少年は面倒くさそうに怒鳴る。
「何言ってんだ、あんたこそエレベーターで何してんだよ、話をするだけだと言ってたくせに」
タキはわんわん泣いてるオメガを膝にのせてあやしている。
白面が経営しているこの学園の理事長室は、タキにとっても私室みたいなものだが、その机と椅子には少年がふんぞりがえって座っている。
そして、タキはソファで何故かオメガを膝にのせ、必死で泣き叫ぶオメガを宥めているのだ。
「違う違う違う違う、ボクをボクを愛してるぅ!!」
叫んで泣きじゃくるオメガ。
「うるせぇ」
少年が面倒くさそうに怒鳴る。
その声にオメガは怒鳴られた幼児のように泣き喚く。
ぎゃあ
きゃあ
とても成人しているオメガには見えなかった。
オメガは外見以上に成熟しているものなのだが。
同じ年頃のベータにすら見えなかった。
これでは幼児だ。
泣き喚くオメガに手を焼いた少年が授業中のタキを呼び出したのだ。
明らかなセックスのあとと、泣き喚くオメガに呼び出されたタキも呆然とした。
で、現在に到る。
「お花畑なんてモンじゃねーぞ、ソイツの頭の中。そいつはめでたいなんて奴じゃねぇ、頭の中にウジ沸いてやがる」
少年は吐き捨た。
「どうすんだよ、この状態で帰すのかよ」
タキはぎゃあああ、ぎゃあああと声のかぎりに喚いているオメガに完全に手を焼いている。
背中を撫でて、ゆっくりゆすり、まだ幼かった弟をそうやって宥めたようにタキは必死でオメガをあやしている。
弟がそんなことをしていたのは、もう5年ほど前なのだが。
まさかの成人のオメガをなだめる羽目になるとは。
「どうせ、コイツに俺が接触するのも黄金の野郎は折り込み済みだよ。めんどくせぇ、そのまんま家に帰せ」
少年は本当に面倒くさそうに言った。
「顔や姿だけなら、代わりにするにしろ、こんなのにしなくても良かったはずなんだがな。自分の代用品てだけでも気持ち悪いのに、さらにこんなバカならもっと気持ちわるい」
少年は嫌そうに言い放つ。
「代わり・・・代わりかもしれないけど・・・ちゃんと愛してくれて・・るぅ!!!」
またオメガがキレる。
「落ち着け、いいから落ち着け!!!よしよし、いい子だから・・・」
タキだけが必死だ。
「髪の色変えて、目の色変えなきゃ愛せないのは愛じゃねーの。屋敷で飼って飼い殺すのは愛じゃねーの。愛っていうのはソイツをそのまんま、自由にして愛するってことなんだよ、分かれバカ」
少年は偉そうに言う。
タクさんをほぼ無理やり強姦しておいて、無理やり生活に割り込んで、オマケに戸籍も何もかもかも消去させてまともな人生そのものを狂わせておいて、ヌケヌケと何を言ってんだコイツは、とタキは思ったが、少年は自己矛盾には気づいていないらしい。
「俺は俺の恋人をそのまんまの全てで愛している。ダメなところも含めてな」
平然と続けて言ってみせたので、本当にわかっていないのだろうとタキは確信した。
だが、余計なことを言うと危険なのでだまる。
タクさんの置かれている現実よりも、自分の生命が大切だ。
それに。
このオメガを。
黄金が愛しているとはタキにも思えなかった。
タキにすら、「使ってみろ」と黄金はこのオメガを差し出そうとしたのだ、黄金は。
「愛されてるぅ!!」
それでもオメガは認めない。
それを認めたら。
このオメガの全てが壊れるからだ。
それもタキは分かった。
それだけにしがみついて。
他にどう生きれば良いと?
この子はこの子なりにベストを尽くしてきたのだ。
何もできないのなら、せめて、前向きに、幸せを見つけて生きて行こうと。
現実が変えられないのなら、受け止める心の方を変えて、オメガは 幸せになってきたのだ。
誰も傷つけることなく。
それは。
多分、この子に関わらず、多くのオメガ達の生きるための術だろう。
この少年。
このアルファを殺すオメガが異常なのだ。
少年は面倒くさそうに立ち上がり、タキが膝に乗せて背中をさすってなだめているオメガの側に行き、凍り付くような眼差しで見下ろした。
「お前は愛されてねぇ。黄金がほしいのはこの俺だ。それは変わらねぇんだ、現実を受け入れギャアギャア泣くな」
オメガが泣き止んだのは、少年の言葉ではなく、少年が首筋に押し付けたナイフのせいだろう。
「欲しけりゃ、手に入れろ、選べ、このまま俺の代わりとして使われるか、それとも、黄金が俺を諦めておまえしか残らないようにするかをな。愛ってのは勝ち取るもんだ」
ナイフを突きつけて愛を少年は語った。
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