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第160話
「いよいよ、終わらせる。【黄金のアルファ】を殺し俺が【白面のアルファ】として、序列1位を獲る」
少年は宣言した。
会議室として白面の屋敷の広い書斎が使われていた。
会議室には組織の幹部メンバーと、少年の私兵として花、タキ、そして、白牛の番だったオメガがいた。
白牛の番のオメガは、子供達を奪われないことを条件に少年に協力することになった。
オメガの能力の高さは少年や花によって証明されているので白牛の番、今はその瞳の色から「青」とよばれているオメガの協力は有難い。
とにかく、アルファには序列がある。
1番強いモノが1位だ。
順位にはアルファは厳格だ。
きっちりとした順位を決めている。
ベータやオメガにはない、アルファ独自の性質だ。
順位が高いからといって、特に何があるわけではない。
順位は実力だからだ。
アルファは実力主義なのだ。
順位が高ければ自然に権力は上がっている。
アルファに関しては順位が実力に伴わないということはないのだ。
少年は実力でアルファ序列の2位にいた。
白面のアルファとして。
この地位についてみせた。
オメガでありながら。
「長年、1位と2位が直接あらそうことは避けられてきた。アルファは確かに実力主義だ。だが現実主義でもある。無謀はアルファにはない。1位と2位の直接の大きな勝負はリスクが大きすぎるからだ。そして、おそらくアルファ達がそれを避けるのには別の意味もある。アルファは、より虫に近いんだ」
少年がとんでもないことを言い出した。
「アルファが生まれてから成人するまでは繭の中にいることがわかったよな。アルファは誰にも育てられていない。だけと、奴らは繭を破って出てくる時には必要なことは知っている」
少年の言葉が事実であることは、もう組織もわかっている。
「アルファには集団意識がある、集団としての記憶力、集団としての知性がある。あいつらは繋がっているんだ。蜂や蟻のように集団としての知性があるんだ」
少年はアルファについて考え続けた。
アルファは人類達よりはるかにモラルが高い。
自分の気分だけで、世界を踏みにじろうとはしない。
確かに、ベータを自分の快楽のために殺したりするが、だが、最低限なのだ。
限度がある。
これが、ベータなら違う。
自分達が優れていて、何をしてもいいとおもったなら、どれだけ苛烈で残忍なのかはベータ達の、人類の歴史が証明している。
「そうならないのはアルファのモラルが高いからだとアルファ達は言ってきたし、ベータ達も自分達とは違う慈悲深い支配者様に感謝してきたわけだが、俺はモラルじゃないと思ってる。アルファには集団としての知性がある。アルファ達が意識してるとは思えないけどな。1人の意志や欲望よりも、種としての意志や欲望を無意識に優先させているんだ」
ここでまた蜂や蟻を少年は例えにだす。
巣の集団を守るために、蜂や蟻は人間と同じくらい高度な知性を働かせる。
高度な役割り分担を担った社会を築き、運営している。
それとおなじことをアルファはしている、と少年は考えていた。
「花は始まりの地で、この地球へとやってきたアルファ達を見てる。凍りつきやってきたアルファ達がいたことを。おそらく、アルファは世界を捨てて、この世界に来た。だが、それをどうやって選択し、誰に従って決めたのかということだ。多分、蜂の巣別れ、分蜂に似たシステムがおこったんだろう。蜂が巣を捨て新しい巣をつくるように、彼らはその世界を離れたんだ。本能として。それを決めたのはおそらく。序列1位、アルファの中のアルファだ。そこが鍵なんだ。もっとも優秀なモノの判断で、アルファ達はこの世界を移動してきているんだ」
少年の言葉に皆は頷く。
アルファは愚直なまでに彼らのモラルに従う。
それはアルファが高貴である証明とされていたが、彼らの種族としての特性なら?
個人の快楽や欲望だけを追い続けることを種の本能として禁止していたなら?
蜂や蟻は種が滅びるような行動をすることはない。
それと同じだ。
「1位と2位の闘いを避けるのはおそらく、優秀なアルファ同士が潰し合うのを避けるためだろう。1位に何かあった時に代わりになる2位が必要だからだ。本能的に避けている。そこまでして、優秀な1位をアルファは求め続けている。普段はとりたてて必要とはしていないのに。なんのために?おそらく、非常時の判断のためだ」
ここからは仮説だと少年は言う。
「おそらく、第1位のアルファは、世界を移動するためのスイッチだ。アルファが決める。この世界を離れると。それが出来るのは、今、現在黄金のアルファだけだ」
仮説にしてもとんでもない仮説だった。
「黄金が他のアルファ達をつれてこの世界を去ってくれたなら全てめでたしめでたしでいいんだが、そんな旨い話はない。黄金はそんなことをしてくれないだろう。だが、俺が黄金をたおして1位になったなら?」
少年の言葉の意味が誰にもわからない。
オメガが1位になったとしても、それは何の意味もないだろう。
アルファには集団の意志はある。
だが、オメガやアルファは違う。
「いや、オメガはアルファから作られた。アルファを使ってオメガは生まれた。だから奴らの子が産める」
おそらく、使われたものは科学ではない。
科学では説明のつかないモノを使ってアルファはオメガを人間を改造して作り出した。
それもおそらく、アルファの集団意識の中にあって
その時アルファ達も犠牲になっていたのでは?
自分達の番をつくりだすために、犠牲になったのは人間だけではなかったのでは?
それは仮説だった。
だが、少年、そして花によって証明されていた。
「俺や花がアルファを殺す毒を体内で生成するのはわかっているな?その毒を抽出はできても複製することには成功してないが、解析は少しは出来ていて、アルファの体内で作られる物質に酷似している、ということがわかっている。俺たちの毒はアルファのフェロモン由来なんだ。俺たちオメガはアルファと同じモノを身体の中に作り出せる。つまり、俺たちオメガはアルファの亜種なんだ。だからヤツらの子供が生める、これは可能性でしかないが、俺たちオメガが本当のアルファの1位になれる可能性はある。オメガは、アルファの変化の先にいるんだ」
これは少年も初めてする話だった
仮説だった。
オメガはもしかしたらアルファの変化形なのではないかと。
でも、アルファの子供を生める時点でそれはそうなのではないかと考えつくことだ。
だが、だれもが。
オメガがアルファのためのものとしか思わなかったのだ。
オメガ達本人でさえも。
作り出したアルファでさえも。
本当に本物の序列1位のアルファに少年はなれるのかもしれない。
なれなかったとしても、序列1位を取ることはいずれアルファを滅ぼすためには都合がいい
「序列一位をとる。そして、アルファ共をこの世界から引き連れて行く。ハーメルンの笛吹のようにな」
少年は笑った。
「え、それじゃお前もこの世界から居なくなるじゃないか!!」
そう叫んだのは正式には椅子を与えられず、部屋の隅に座っていたタクだ。
話の半分も分からなかったが、序列1位のアルファがアルファを引き連れてこの世界を離れるということと、少年がそれに成り代わってアルファを引き連れて去ろうとしていることはわかったのだ。
「ダメだ、そんなの!!」
タクが叫んだ。
アルファを全滅させるために、少年まで一緒にこの世界から消え去るなんて。
そんなの間違っている、そうタクは思ったからだ。
少年は笑った。
嬉しそうに。
「大丈夫だ。タク。俺はお前のいないとこには行かねぇよ。アルファ共はおそらく、始まりの場所、あの穴へ行きみんな眠ったように凍る。眠ったアルファなら殺したい放題だ、全員一気にころしてやる」
少年は笑う。
「まずは、黄金をぶち殺そうぜ、俺の仮説が正しくなかったとしても、黄金はどのみち殺さないとないけなかったんだしな、奴は俺の正体を知ってる」
少年は明るく言った。
なんならちょっと跳ねている。
タクの心配が嬉しくてたまらないのだ。
「とにかく、まずは、黄金を殺す。派手に宣言しよう。長くなかった1位と2位の直接対決だ!!」
少年は自分の勝利を確信していた。
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