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第161話

「久しぶりじゃねーか、黄金」 少年は上機嫌に言った。 黄金のアルファは上半身の服を脱いでその黄金のからだを風に晒していた。 風は真っ赤な髪を巻き上げてもいた。 月明かりだけが照らす荒野に立つ黄金のアルファは とても美しかった。 勝負をするための中立地帯に2人は立っていた。 新聞やテレビが2人の対決にこの数日盛り上がっていた。 白面が古式ゆかしく黄金に宣言したことは知れ渡っていた。 黄金のアルファ 白面のアルファ 頂上決戦。 だが、誰も全てが終わるまではこの荒野に入ることを許されてない。 生き残った方の勝利宣言を待つだけた。 アルファ同士の戦いを邪魔することは誰にも許されていないのだ。 2人は月明かりの下で黄金のアルファと白面のアルファとして向かいあった。 「綺麗になったな」 黄金のアルファがその単眼を細めた。 「あの人にますます似てきた。抱きたいよ。お前の中の具合は本当にあの人に似てる」 黄金の言葉は直球だ。 黄金は発情していた。 フェロモンが身体から溢れていた。 「ソイツは・・・俺を倒してからにしろよ」 少年はクスクス笑った。 黄金は不思議そうな顔をする。 黄金のフェロモンは届いているはずなのに、何故少年が発情しないのかがわからないのだ。 番なのだ。 何故? 黄金のフェロモンは少年には効くはずだ。 「不思議か?不思議だろ?俺の毒やフェロモンはお前のフェロモンと同じ物質だ。色々ためしてみたらな、他のオメガが出す毒を定期的に摂取したら、抑えられることがわかった。花と毎日セックスしてたからな、俺の毒もフェロモンも中和されてしまうが、お前のフェロモンも効かなくなるんだよ」 少年は笑った。 仮説ははまった。 花を沢山のアルファやベータに抱かせたのは、これを証明するためでもあった。 花はオメガが単なるアルファによって作られた性的哀愛玩物や子どもを生む道具ではないことを証明してくれた。 オメガは。 アルファを超えるモノだ。 そう少年は確信していた。 「それで?毒もフェロモンも使えないのに私と戦うのか?まあ、元々私にはお前の毒は効かないが」 黄金は落ち着き払っている。 そう。 その通り。 オメガとアルファでは戦闘力が違う。 たとえ、ベータよりはるかにオメガが優秀であっても、アルファをオメガが殺せるはずなどない。 「ああ、そうだ。その通りだ。俺がお前とマトモにやり合って勝負になるわけがないだろ?」 少年は頷いた。 それは事実だった。 黄金が静かにゆっくり近付いていく。 少年を打ち倒して、その孔をたのしむために。 少年も上半身の服を脱ぎ捨てていた。 月明かりにその淫らな肌が映える。 少年の手に鋭い刃物を見つけて黄金は笑った。 そう、確かにアルファ相手に銃火器は効かない。 呼吸の隙間に僅かにある急所の血管を切り裂く以外、アルファをたおすことは無理だ。 だが、セックスや毒で脳が溶けたアルファでもない限りそんな攻撃は不可能だ。 そんなモノ可愛いだけだ。 黄金は微笑んだ。 その程度しか考えつかないのではお前じゃなかったということだ。 そう思いながら。 だが、黄金は次の瞬間跳ねた。 跳ねた黄金の跡にナイフがいくつも飛んできた。 黄金の顔色が変わる。 何故なら、黄金の予測とはナイフの軌道は違った動きをした上に、銃とは違って始まりが分からなかったからだ。 そしてナイフは確実に急所を狙ってきていた。 しかもたしかに黄金の呼吸の隙間にあわせて。 こんなこと、ベータには無理だ。 だが、少年ではない。 少年は動いていない。 もう1人いる。 オメガなのだ!! そうわかった。 「確かになぁ、オメガとアルファが戦ってもオメガは負ける。でも、それは一対一の場合な?」 少年が斬りかかってくる。 簡単に避けられる、はずだが、背後からまたナイフが飛んでくる。 軌道が微妙に読めない。 少年を叩きのめす代わりに避けるだけになってしまった。 でも、まだつかまえられる。 伸ばした腕に向かって長い刃物が走る。 誰かが飛びこんできたのだ。 少年じゃない、褐色の肌に、青い瞳の、大柄な、【オメガ】だ。 この刀も軌道が微妙に読めない。 ナイフがまた背後から、少年は頭上まで軽々と跳び、刃物を煌めかせてくる。 3人。 オメガが3人いる。 黄金は転がり、すべてをかろうじてかわした。 「なあ、でも、オメガが3人だったら、アルファを相手に出来るんじゃねーかなって俺はおもったわけ」 少年がケラケラと笑った。 花と、今は青と呼ばれている白牛のオメガもそこに立っていた。 「アルファ同士の対決は、【アルファは】正々堂々としか勝負ができない。それはおまえらの本能だからだ。お前らは本能に逆らえない。だが、俺たち【オメガは】違う、本能を越えられる」 少年は確信していた。 オメガはアルファを超える存在だと。 アルファは決まり事からぬけだせないのだ。 アルファらしからぬ黄金ですら卑怯な手段を使えない。 それがアルファの本能なのだ。 ベータとは違い、全滅し合うまで卑劣な手口を使えないのは、集団の意志を持つアルファという生き物ならではの本能なのだ。 だが、オメガは違う。 そこはベータ並に卑劣になれる。 少年のように。 花のように。 「誰が正々堂々と闘うかよ」 少年は嘯いた。 オメガは違う。 本能に従うだけのアルファとも、服従しかできないベータとも。 オメガはそこから脱げ出そうとすることが出来る。 それは少年が自分自身で証明してきたものだ。 「オメガはアルファを駆除する者だ。俺たちに殺されて、消え失せろ、アルファ」 少年は黄金に宣言したのだった

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