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第165話

少年は黄金に致命傷を与えたわけではないと分かっていた。 そして、ここから黄金の攻撃が来ることも。 巨大な黄金の拳が顔を砕きにやってくる。 避けられない。 でも、少年はのしかかられて身動きがとれない。 だが、拳が少年の顔を砕く寸前、黄金はその巨体からは想像できない素早さで少年の上から垂直に跳ねた。 自分の身長以上に。 刀で風を斬る青と、ナイフを投げる花がいたからだ。 花も。青も。 オメガ達は記憶から自分を救いだしたのだ。 記憶の中で自分を貪る千里眼に花は毒の注射を打ち込んだ。 現実にそうしたように。 「おまえのモノであってたまるか!!」 そう叫ながら。 記憶は霧散する。 青は。 記憶の中の白牛を斬った。 「ああ、愛していたよ。殺してからならそう言える。オレをモノにしていたお前をオレは殺してきちんとあいしてやるべきだったんだ!!」 泣きながら斬った 子ども達を抱き、微笑む白牛を。 モノとして愛されるのは、どんな愛よりも残酷だった。 なのに愛してしまうなら、終わらせるしかないだろう? 青は白牛を斬ったのだ。 記憶は霧散した。 少年と同じように、オメガ達は記憶の呪縛を解いた。 自分自身で。 モノであった自分を解放したのだ。 そして今。 黄金を攻撃する。 オメガ達はアルファを殺しにやってきたのだ。 自分は自分で救わなければならない。 誰も助けてくれなかったからこそ。 だれもアルファに逆らわないのなら、自分が逆らう。 誰にも愛玩物と呼ばせないためには、オメガを愛玩物になど出来ないようにすればいい。 オメガはアルファの愛玩物ではない。 アルファはそれを認められない。 彼らは変わることが出来ないからだ。 彼らは定められた通りにしか生きられないから。 なら。 滅びろ。 滅びるしかない。 オメガのために。 花は吠えた。 青は叫んだ。 少年は怒鳴った。 身体が弾け、跳び、武器が風を切る。 オメガ達の再攻撃が始まった。 先の攻撃よりも、苛烈な攻撃をオメガ達は切れ目なく行った。 黄金の皮膚をオメガ達は切り裂いていく。 血が飛び散る。 だが。 だが。 こんなものではアルファには効かない。 届かないのだ、後数ミリが。 意を決した、青が深く突っ込む。 黄金の攻撃を避けられる距離では、攻撃があまくなるからだ。 青は子供達と共にいるために少年に協力した。 最初は。 だが。 今は終わらせたいとねがっていた。 飼い主候補の中で1番良さそうなものをえらぶことだけが人生の意志だなんて。 どこかでオメガを抱き、ベータを殺してくるアルファに毎日抱かれるなんて。 しかも。 それを。 愛するなんてクソみたいな人生だ。 だから生命がけで踏み込んだ。 だが。 僅かに剣先はそれた。 そして、青の腕が黄金の手に掴まれて。 粘土細工のようにもがれた。 青の肩の付け根から血が吹き出した。 「青さん!!」 花が叫ぶ 「オッサン!!」 少年も怒鳴る。 少年は25才の青をオッサンと呼んで、青をずっと怒らせていたのだ。 黄金は青を掴んだ。 まだ引きちぎらない。 少年や花が、青の身を案じて攻撃してこないと知っているのだ。 「おもしろかったよ。思った以上にお前は良くやった。ここまでやられるのは想定外だった。やはりオメガはアルファの変化したものだな」 黄金はいつでも青の首を千切れるように手をかけながら言った。 「だが、もう終わりだ。全部予定通りだよ。お前は可愛い。愛しいよ。お前はよくやってくれた」 黄金は微笑んだ。 愛しい愛しい片割れ。 必要だったパートナーだった少年に。 「・・・・・・どういうことだ?」 好奇心に少年が負ける。 いや、ずっと気になっていたはずだ。 何故黄金が最後まで少年を自由にしていたのか。 黄金を殺すつもりだっただろう。 でも聞きたかったはずだ。 何故、今まで自由にしたかったのか。 黄金にはもうわかっていた。 確かに傷をおわされたし、なかなかオメガは良くやった。 他のアルファならなんとかなったかもしれない。 でも。 黄金には理由があった。 負けてはならない理由が。 ただ負けたくないだけの他のアルファとも、ただ、アルファを殺したい少年達ともちがう。 オメガ達が勝てるわけがなかった。 最初から。 このオメガの首を千切り殺せば、二人だけになったオメガ達ではアルファに勝てない。 勝負は終わりだ、オメガ達は死ぬ。 そして、やっと黄金の望みは叶う。 だからこそ、話してやりたかった。 感謝をこめて。 離してやりたいとはおもっていたから。 「最初から全部決まっていたんだよ」 黄金の声は慈愛に満ちたものだった。

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