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第166話
「お前1人で考えついたと思っているのか?【オメガがアルファの変化したものであること】や、そして、【アルファが集団意識を持ち、1人のアルファの決断で世界を渡っていくものだ】と。自分1人で考えついたと?」
黄金は少年を見つめ首をふる。
確かに。
少年もそこは疑問におもっていた。
あまりにも仮説はハマり過ぎた。
不安になるほどだった。
「私がお前に教えたんだ。お前の意識に忍びこみ、それを植え付けたんだ。時がきたら【そう思いつく】ように。1位のアルファは他のアルファの意識を操れる。オメガもアルファの変化形だからな。アルファがこの世界に出現したポイントを訪れろとお前の意識にうめこんでおいた。必要な時期にそこへ向かうように。あそこでは条件さえ整えば過去が見れる。お前たちオメガは私達アルファとはちがって共通の記憶がないから、始まりについては知らないから」
黄金の言葉が事実だとわかった。
こんなに上手くいっていいものか?
少年は何度も思った。
自分の頭脳の優秀さを疑ったらことはない。
だか、こんなに上手く行き過ぎるのを素直に信じれるほどおめでたくはない。
「お前は賢い。正直、オメガ相手では知識の1部を埋め込んだり、記憶をすこし操作する位が精一杯で、意志を操ることはできないんだ。だが、わずかな手がかりだけで、お前はちゃんとここまでたどり着いた。素晴らしいよ」
黄金は嬉しそうだった。
我が子を自慢する父親のように。
反吐が出る。
少年は思った。
でも、 コイツに操られて動いてたのか、俺は。
そんな自分にも反吐がでそうだった。
でも、まだだ。
まだ。
「でも、何故そんな真似を?」
そうだ。
そこだ。
なんで黄金はわざわざ、自分を倒しにくるオメガを作り出したのだ?
なんの為に?
「私は本当の1位になる必要があった。この世界を捨てて別の世界へ移るような集団意志の発動は序列1位のアルファが決める。全てのアルファの意志をしたがえて。だが、その前にその1位が本当に1位なのかを決めなけならない。
1位と2位が命をかけて争わなければならない。
1位が2位を、2位が1位を殺して真の1位になった時、条件が調い、【1位はすべてのアルファの意志を完全に操れるように】なる。
今の私に出来ることはたかが知れてるんだよ。少しばかり記憶を受け付けたりする程度だ。上位のアルファならお前達がやったようにそんな記憶操作位は打ち破るだろう。
今の私にはその程度の力しかない。
でも非常時でも無いかぎり、アルファは1位と2位の直接的対決は避ける。そう本能に刻まれているからだ。
だからお前が必要だった。序列2位のアルファになれるオメガがね。オメガはアルファの変化形で、でも、アルファの本能に縛られていないから」
黄金が言った言葉を少年は完全に理解した。
アルファは相当なことがない限り1位に挑む2位はいない。
過去に数回あったとされる対決も、その時にアルファの大きな選択が必要だった時なのだろう。
アルファは誰にもしたがわない。
だが、アルファ全体の意志が必要な非常時には、1位と2位が戦い、そして勝ったアルファの意志を全体の意志としてアルファ達は受け入れてきたのだ。
それがアルファのシステム。
そうやって、1位のアルファの意志が全体の意志として暴走するのを食い止めてきたのだ。
全体の意志発動は、非常時のみになるためのシステムだった。
でも、黄金は全体の意志を発動させたかった。
全てのアルファを従わせたかった。
そのために、アルファの変化形であるオメガを序列2位にすることを思いついたのだ。
オメガにはアルファの本能がないから。
本来その時ではなくてもオメガならアルファに戦いを挑める。
黄金は潜ったのだ。
アルファの集団意識の奥にあるアルファ全体の記憶に。
アルファ達が深くもぐろうとも、見ようともしない集団の記憶を辿れるだけたどり、オメガが何なのかにたどり着き、だからこそ出来ると踏んだのだ。
そのために少年を選んだ。
その資質を愛した。
アルファを憎むことを身体の奥までおしえこみ、オメガが何なのかを骨の髄まで叩き込んだ。
何度も何度も犯し、アルファやベータに犯させた。
少年の身体に出来た毒は黄金も予想してなかったもので、だから思ったよりも早く少年はここまでやってきた。
毒がなかったとしても、いずれは少年はたどり着いたと信じている。
実際、複数でならアルファに勝てる可能性があることに、少年は気付いたじゃないか。
なんとかすると、信じてた。
愛していた。
その強さと心と信念を。
今の番ではダメだ。
姿を似せてはみたがだめだ。
物のままでいいオメガでしかなない。
代わりにはならない。
だが、可愛いから使ってはいるが。
「愛してるよ。お前を殺したなら、2位のお前を殺したなら私は本当の1位になるだろう」
少年のおかげだった。
心から黄金は言った。
感謝していた。
確かにアルファのように正々堂々と戦ってはこない、少年は。
それはアルファの本能がオメガにはないだけで、それはオメガの強さだ。
そして、黄金の中の本能は、序列2位と少年を認めていた。
2位のアルファとして。
数々のアルファを倒し、時には殺して上がってきたものとして。
狡さや策略を卑怯として否定する本能もアルファにはない。
オメガをアルファを変化させ、子供を生むモノとして作り上げた時にはそんなことを想定してなかったからだ。
あれも、また、
禁じられた決断だった。
アルファは。
子孫を失い、この世界で人間を殺し犯して、いずれ滅びるべきものだったのに。
「どうするつもりだ。アルファ達の全ての意志を従えて」
少年は聞きたかったことを聞いた。
少年はアルファを全員殺すつもりだった。
アルファ達を別世界へ連れていくためのあの穴に集め、一気に殺すつもりだった。
でも、黄金の望みは?
「あるべき世界にもどす。アルファ達は人間やオメガを犯して殺してまわる、それが全体の意志になる。そして、アルファだけになり。その、中で最後の一人になるまで殺し合って・・・全員滅びたらいい」
黄金は夢見るように言った。
黄金は憎んでいた。
本能にしか従えないアルファを。
征服されて喜んでしたがうベータを。
諦めて道具になるオメガを。
誰1人許すつもりはなかった。
黄金が愛したあの人1人とこの世界では全く釣り合わなかった。
この世界が滅びたところで、あの人を殺したつぐないにはまだ足りないとは思っていたけれど。
ただ、ただ。
「この世界に価値はない。だがお前だけは別だ。お前だけはつよく、美しい。確かに私の勝利だが、お前こそがこの世界の誰よりも強く美しい」
黄金は少年に心から言った。
反逆の魂。
踏みにじられて立ち上がり、諦めなかったその精神。
なんて美しい。
この少年の魂を壊すことなんて誰にもできない。
そう、愛しい人よりも、ある意味では愛していた。
予想を超えて、この少年は素晴らしかったから。
こんな世界を絶対に認めないのは、黄金よりもこの少年だけだったから。
「愛してるよ」
心から黄金は言った。
辛い。
殺すのはとても辛い。
でも、そろそろ終わらせる時がきていた。
さっさと捕まえているオメガの首をちぎって、少年ともう1人のオメガを殺す。
そして、この世界を終わらせよう。
最後の1人になってそれを見届け死ぬことにしよう。
復讐は。
とても甘い。
黄金は微笑んだ。
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