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第170話
少年はゆっくりと起き上がった。
花が鼻水と涙でグシャグシャになり、青が戸惑ったように立っていた。
そして、黄金の遺体はなく、
代わりに真っ黒な灰を固めて作られた精巧な黄金の模型が地面の上に横たえられていた。
模型?
いや、違う。
燃えた遺体だ。
少年が触れた瞬間、その模型は崩れさり、巻き起こった風に飛ばされていった。
「お兄さんが倒れて。そしたら、このアルファが燃え上がって」
花が端的に説明してくれた。
そういうことか。
そうなんだな。
少年は納得した。
精神世界でのことは現実になる。
おそらく。
全てのアルファが燃え尽きた。
オメガという亜種を残して。
世界が変わった瞬間だった。
だが、不思議となにも思わなかった。
支配者を失ったベータ達の争いが始まる。
少しでもアルファに成り代わるために、アルファができもしなかった汚いことが始まるのは確実だった。
それこそがベータだ。
世界はまた腐り果てるのかもしれない。
アルファ以前に。
そこでオメガはどうするのか。
新しい支配者になるか?
それとも?
そこには少年は関心がなかった。
世界は滅びるのかもしれない。
黄金が望んだように、アルファ達が短時間でこの世界を滅ぼしてしまった方が慈悲深かったのかもしれない。
だとしても、知ったことではない。
「花、帰ろう、終わったんだ。俺達はもう、自由だ」
少年は花に笑った。
分かってることは
もうこの世界ではオメガは物などではない。
全てのアルファを殺戮して。
少年は自由になった。
それが物語の全て。
少年は。
愛する恋人の元に帰るのだ。
もう誰にも少年が恋人を愛することが間違いなどと言わせない。
オメガはアルファのものだなんて言わせない。
邪魔する全てを消し去って、世界すら変えてしまって、少年は恋人の元へ帰る。
これはラブストーリーなのだ。
オメガ達は、アルファのいない世界に立っていた。
すくなくとも。
彼らにとってこの世界は今。
素晴らしいものだった。
彼らが新しい残酷な支配者になるのかもしれない。
オメガは。
アルファほど、甘くはないのだ。
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