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エピローグ
少年を待っていた。
タクはただ待っていた。
タキや、青の子供達と一緒に。
黄金が勝ったならどうなるのかなんて。
だれにも分からなかった。
あのアルファが何を考えてるか誰にも何もわからないのだ。
【組織】は盛り上がっていた。
少年が勝った後の世界のためにだ。
どこよりもはやく、アルファに成り代わらないといけない。
ただし、少年が負けたなら組織は何もかもを失う。
組織は少年に全てを賭けていたのだ。
少年が何らかの方法でアルファ達を消し去った後、誰よりも早く実権を掌握し、混乱を最小でおさめるために。
組織はその準備に追われていた。
タクは世界なんかどうでも良かった。
ワガママで迷惑この上ない少年のことしか考えていなかった。
それは。
タキや、青の子供達もおなじだった。
その時間。
どこかの邸の ベッドの中で突然番のアルファが燃え上がったオメガがいた。
その焔は。
アルファだけを燃やした。
燃やされながらアルファは、オメガを見ていた。
苦痛はなかった。
むしろ、初めてみるような安らかさがその表情には
あった。
唇が動いた。
「愛してる」
そうアルファは確かに言った。
灰になり崩れ堕ちる番をみながら、驚き、哀しみ、そして、同時に解放されるのをオメガは感じていた。
これは愛だったの?
愛というには。
檻のようだった。
甘やかではあっても。
生まれたときからある檻、それがアルファだった。
焼落ちたその時にこそ。
不思議と愛していると思えた。
檻が消えたときこそ。
全てのオメガは。
番が焼け落ちるのを見てなかったとしても。
アルファがいなくなったのだと。
その時 知っていた。
分かった。
アルファは。
オメガの半身ではなかった。
でも。
アルファは。
オメガの一部ではあった。
アルファからオメガは生まれたのだから。
半身として求められても。
オメガは半身などではなかった。
アルファの半身など、もう存在していなかったのだ。
少年が得た記憶のひとつ。
生まれた1つが2つに別れ、そして番となる生き物。
何時の頃からか、2つに別れた片割れが育つことなくその胎内で溶けていくようになった。
でも。
片割れを。
わが身そのものの片割れを。
哀れな生き物は探し続けたのだ。
もう失ったのに。
それをオメガにもとめた。
自分ではないものを自分にしてしまうのは。
全てを奪うのに等しいのに。
その愛は。
オメガ達にとっては。
自分ではないものへの愛だった。
その愛は檻だった。
オメガ達は。
檻の扉を開いた。
甘い檻から出て自分になるために。
自分として愛されるために。
「タク!!タク!!タク!!」
飛び込んできたのは少年だ。
白面の邸の門の前でオロオロと歩き回っていたタクの上に門を軽々と飛び越えて少年が堕ちてきたのだ。
抱きしめられて、頬擦りされて、顔中に夢中でキスを落とされる。
「やめて、せめて、ここではやめて!!」
タクが叫ばなければ、そのまま犯されていただろう。
もうズボンは引きずり下ろされていた。
「タク。タク愛してる」
少年は繰り返す。
門の外には花と青が立っている。
さすがに呆れて少年を、みている。
2人はちゃんと門から入ってくるつもりらしい。
「タク、俺に何して欲しい?なんでもしてやる。俺は何でもできる。なあ、何がお前の望みだ?もう俺の望みは叶った。後はお前のためになんでもする。世界が欲しいならくれてやる。いいか、俺はなんだってできるんだ」
少年が本気なのはわかった。
本当に。
少年はタクのために世界でもなんても手にいれようとしていた。
タクはせつなくなって少年を抱きしめた。
この子は。
愛し方さえ知らない。
どんな手段も選ばないで目的を達成し、
どんなアルファよりも恐ろしいのに、ただただ愛して欲しいと願う、可哀想な子だ。
「要らないよ。なんにもいらない。お前がそのまんまで、好き勝手できるんだったらそれでいい」
タクは少年に囁いた。
少年は。
何1つ自分に望まない恋人に微笑んだ。
誰のものでもないということは。
本当に愛してるということだった。
End
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