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第3話

微かな物音と人の気配を感じ千月は瞼をこじ開けた。 玄関先で千月は襲われた。 扉を少し開いた瞬間、何者かによって扉は引っ張られ勢いよく開け放たれた。 その衝撃にちょっと油断した千月は、大柄の男に背後を捕られた。 あっという間もなく白い布が顔を覆い体から力が抜けていった。 目を開けた千月だが、嗅がされた睡眠薬のせいで、酷い目眩と脈打つような頭痛がした。 未だ微睡みを含む千月の頭は、はっきりと覚醒させてはくれない。 ボーと宙を仰ぐ千月に近づく人の気配…。 反射的に防衛本能が働く。 体を丸めようとした千月は、両手両足が鎖で繋がれている事に気づいた。 ガチャガチャと音を立て、鎖を解こうと体をひねる。 「…小南様。お目覚めになられたようですね。」 千月に初老の男性が声をかけた。 黒の紳士服に身を包み、白髪を後ろに撫で付けた清潔感あるその男性がにこやかに声をかけた。 「おい!おっさん、何だよこれ!早く外せ!」 怒鳴り声をあげ手首に付けられた鎖をジャラジャラと鳴らした。 「小南様。昴様の許可無くして、それを外す事はできません。」 「昴だァ?んなら、早くそいつ呼べよ!」 怒鳴り散らす千月の声に初老の男性・栖川(すがわ)は、背後に目配せすると静かに下がった。 カラカラと軽やかな車輪の音を立て近づいて来たのは、車椅子に乗ったハーフのように色素の薄い男性だった。 「…手荒な真似をしてしまい申し訳ありません。私は久我 昴(くが すばる)と申します。」 凛とした表情で、名刺を差し出した久我昴と名乗る男。 彼が纏うオーラからは、‪α特有の高貴さが感じられた。 グレーのスーツに身を包み、小さな顔に栗色の短髪。 彫りの深い顔立ちに淡いブロンドの瞳と薄い唇。 車椅子に乗っているのに分かるスラリとした長い手足。 整った容姿に柔らかな口調。 そのどれもが、人を惹きつける魅力を放っていた。 「栖川、腕に嵌めている枷を外してやりなさい。」 「はい。畏まりました。」 失礼します。と一声かけ手首に着けていた枷の鍵穴に鍵を差し込み外した。 千月は、自由になった腕を振り上げ栖川に殴りかかろうとした。 しかし栖川は、想定内と言わんばかりに千月の腕を掴んだ。 にこやかな笑をたたえたまま昴の前に腕を差し出させると名刺を握らせた。 その間千月は、腕を握られされるがまま。 栖川は腕を握る手に強弱を付け、千月の腕の筋肉を動かした。 《久我株式会社 社長 久我昴》 手渡された名刺には達筆な字でこう印されていた。 「……く…が。」 名刺と昴を交互に見ていた千月の口から、空気が漏れ出るように呟かれた。

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