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第5話

「はい。…先程も言いましたが、私はもう一度あなたに会うためにこの5年間を過ごしてきました。 あの日私は、偶然千月さんに出逢いました。 千月さんから流れ出る血に心奪われたのを今でもよく覚えています。」 何が言いたいんだ…? 確かにあの時、軽いかすり傷を負った。 血が滲む程度の本当に軽い傷だ。 心奪われるって…吸血鬼でもないのに何馬鹿な事ほざいてんだよ……。 俺が引きつった顔で、アイツを見ていたからか「何故わからない。」とでも言いたげに小首を傾げた。 「…千月さんは、この部屋に居て何も感じないのですか? 私がこんなに傍に居るのに…何も感じていないんですか?」 困惑気味に迫ってくる昴。 彼が纏う空気が、圧迫感を含んだものへと変わった。 それと同時に一層甘い香りが部屋に充満し、アルファのフェロモンだと気づいた時には、呼吸が乱れ体が熱を帯び始めていた。 「私は千月さん…あなたが欲しいんです。 他の誰の物にもしたくない。 私だけのオメガでいて欲しいんです。」 「ハァ…ハァ…ハァ………残念だが、俺は誰の物にもならない!…ハァ…ハァ…オメガなんて形だけのもんだ。」 息も絶え絶えに言葉を紡ぐしかできない。 上位αのフェロモンに煽られても尚、威圧的な態度を取れたのは、Ωとしての機能を開花していないからだろう。 「…僭越ながら、眠っている小南様の胎内を調べさせて頂きました。 確かにあなたは、初潮すら迎えておりませんでした。 ですが……「栖川、下がれ。」」 栖川の声を遮るように昴が声を荒らげた。 「失礼致しました。」 「…そうですね。千月さん、私と取り引きをしませんか?」 先程までのフェロモンは抑えられ、取り引きを申し出てきた昴の顔を、熱っぽく赤らんだ顔で凝視した千月。 「…取り引き?条件によっては受けないからな。」 「…コホン……ひと月…私とひと月だけ生活を共にして下さい。 もちろん、同意なしにあなたに触れる事は致しません。 ひと月だけ共に過ごして下さった後は、あなたの意思を尊重し今まで通りの生活を送る事も約束致します。」 「それは1ヶ月此処にいれば、解放してくれるってことだよな?」 「えぇ。その通りです。」 一枚のコピー用紙に取り引き内容をサラサラと書き留めると、千月に見せ確認と同意のサインを受け取った。 『 条件 一、8月26日〜9月25日までのひと月間を久 我家で生活する。 二、衣食住は全て久我家が提供致します。 三、千月さんの同意なしに触れ合う事は致し ません。 四、久我家の物は、全て自由にお使い下さ い。 破損した際にも一切の責任は問いませ ん。 五、取り引き終了日を持ちまして、 千月さんの身柄は解放し、 元の生活が送れるように取り引き終了後 ひと月の間は、資金を援助致します。 8月26日 久我 昴 小南 千月 』 提示された条件は、どれも千月に有利な物ばかりで、ひと月だけならと取り引きに快諾した。

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