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第2話 洋食店『ファミーユ』

オフィス街の裏通り。 高層ビルばかり立ち並ぶ裏通りにひっそりと、知る人ぞ知るレトロで小さな可愛い洋食店がある。 店のアイアン格子柄のドアの上には丸みを帯びた赤と白のストライプの屋根があり、ドアを挟むように四角い窓が2枚。 向かって右側のドアの下には、食品サンプルがケースに入っており、店のメニューが飾られていて、向かって左には黒板が立てられ、『今日の日替わりランチは、ことこと煮込んだビーフシチュー』と書かれている。 店内に入ると窓から入る日の光と、ランプの優しいオレンジの光が辺りを照らし、皺ひとつ、シミひとつない白いテーブルクロスのかかった机の上には、シルバーのナフキン立てが置いてあった。 平日の12時過ぎ、その店、『ファミーユ』はいつも満席。 外には10人ほどの人の列が出来ていて、いい香りのする店内には、おそらくファッション系の仕事をしているだろう人達から、スーツ姿の男性や、会社の制服を着た女性達。 それぞれ好きな席に、一緒に食べたい人達と食事をしているが、9割ほどが、 「本当にここの日替わりランチメニューは最高!」 と、店の外に置いてあった黒板に書かれている日替わりランチメニューの、ビーフシチューを頼んでいる。 残り1割、日替わりランチメニュー以外のものを食べているのが…… 「忠直(ただなお)さん…忠直さん…!!昼休み終わりますよ」 「!!」 昔のことを考えながら、店の窓から見える景色を眺めていた忠直の顔の前に、ひょこりと現れた顔に驚いた。 店内を見渡せば、あんなに沢山いた客もまばらだ。 「もうそんな時間?」 「12時45分。もうそんな時間です!!急いでください!!」 「!!」 白いシャツにカーキ色の腰エプロンを巻いている若い店員に声をかけられた忠直は、店内の時計で時間を確認し、さらに驚いた。 ヤバい。 遅れてしまう! 慌てて椅子にかけていたジャケットを、椅子の下に置いてあるカゴからカバンを取り、財布を取り出そうとすると、 「お会計は次回で大丈夫です。急がないと本当に遅れますよ!」 先ほどいた店員に背中を押される。 「でも…」 忠直がその事に躊躇していると、 「明日も来られますよね」 近くのテーブルを片付けていた臨月だろうか?お腹の大きな女性が微笑みながら、忠直に声をかけた。 「もちろん来させていただきますが…」 「じゃあその時で」 にっこりと笑う女性にも店のドア前まで、忠直は背中を押されていった。  「では…、お言葉に甘えて…」 本当は支払ってから行きたかったが、そこまで言われ払っていくのは却って悪いと思い、支払いをせず店を出た。

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