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第13話 2人きり ②

「ん?なに?」 飲もうとしていたコーヒーを一度、ソーサーに置き直し直継の方を見た。 「あの……、その……」 『以前、どこかでお会いしませんでしたか?』 この言葉が直継の口から出てこない。 どうしても、忠直が覚えてなかった時のショックを考えてしまう。 初めて忠直さんとあったのは7年前で、しかも俺は12歳。 忠直さんが覚えているわけないじゃないか。 だから忠直さんが覚えてなくても、ショックを受ける事なんてないんだ… そう自分に言い聞かせるが、自分の事を知らないと言われるのが、やはり怖かった。 覚えていたのは自分だけで、忠直にとっては取るに足らない、記憶にも残らない出来事だと片付けられている事が悲しかった。 「あの…、その……」 直継がなかなか言い出せないでいると、 「いいよ、今じゃなくて。直継君が言えそうになったら言ってくれたら、すぐに聞きに行くから。どこにいたってね」 優しく忠直が直継の頭を撫でる。 嬉しい反面、直継は忠直に子供扱いされているようで切なくなる。 俺だって、もう19だ。 そりゃ忠直さんから見たら、まだまだ子供だけど、もっとちゃんと見て欲しい。 俺だってしっかりしいるところ、あるんだ。 知らず知らずのうちに、直継は口を尖らせていて、その姿を見た忠直から笑みが溢れる。

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