13 / 23
第13話 2人きり ②
「ん?なに?」
飲もうとしていたコーヒーを一度、ソーサーに置き直し直継の方を見た。
「あの……、その……」
『以前、どこかでお会いしませんでしたか?』
この言葉が直継の口から出てこない。
どうしても、忠直が覚えてなかった時のショックを考えてしまう。
初めて忠直さんとあったのは7年前で、しかも俺は12歳。
忠直さんが覚えているわけないじゃないか。
だから忠直さんが覚えてなくても、ショックを受ける事なんてないんだ…
そう自分に言い聞かせるが、自分の事を知らないと言われるのが、やはり怖かった。
覚えていたのは自分だけで、忠直にとっては取るに足らない、記憶にも残らない出来事だと片付けられている事が悲しかった。
「あの…、その……」
直継がなかなか言い出せないでいると、
「いいよ、今じゃなくて。直継君が言えそうになったら言ってくれたら、すぐに聞きに行くから。どこにいたってね」
優しく忠直が直継の頭を撫でる。
嬉しい反面、直継は忠直に子供扱いされているようで切なくなる。
俺だって、もう19だ。
そりゃ忠直さんから見たら、まだまだ子供だけど、もっとちゃんと見て欲しい。
俺だってしっかりしいるところ、あるんだ。
知らず知らずのうちに、直継は口を尖らせていて、その姿を見た忠直から笑みが溢れる。
ともだちにシェアしよう!