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第4話
先程までが幻かと思う位にキリッとした顔でさっさと身支度を済ませたサイが部屋から出て行く。
その後ろ姿を見つめながら、父王の事を思い出していた。
ゴロンと寝返りを打ち、扉を背にする。
あの扉の出現した日に聞こえた扉の中の父王の声を思い出す。
小さく何も知らなかったあの頃の私には分からなかった、あの声の意味する事。
母王の気持ち。
自分のモノが他の男にいいようにされていたんだ…母王はお辛かっただろうな。
私を置き去りにして出て行った事を恨まなかったと言えば嘘になる。
しかし、先ほどのようにサイと体を合わせるようになった今では、母王の気持ちも痛いほど分かる。
もしもサイが同じような事になったら…私なら相手を殺すか、叶わぬならばサイを殺し、その後を追うだろう。
ふふっと笑いが漏れる。
馬鹿な話だ。
私のモノを誰が奪うと言うんだ?
この小さいとは言え、私の国で私に逆らい、私のモノを奪おうとする者などいるわけもない。
瞼を閉じて仰向けになる。
そうか?
耳を掠めるように聞こえた声。
え?
幻聴?
気を集中し、耳を澄ませる。
ほう、聞こえるのか?
地の底を這いずるような低い声。
幼い頃に聞いた事のある、忘れたくても忘れられぬ声。
扉の…!?
奪われないと思っていたモノが奪われた時の感情…それはなかなかに興味深い。
ならば…あれか…サイ…
その声がサイの名を呼んだ瞬間、考える間もなくベッドから飛び下り、さっと身支度を済ませると部屋を飛び出していた。
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