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第5話
廊下を走りながらサイの名を叫ぶ。
何人かが私の声に驚き、集まって来た。
しかし、その中に私が呼んだ男はいない。
心臓が壊れるようにドクドクと鼓動し、その音にかき消されぬよう一段と大きな声でサイの名を叫ぶ。
あれが私の幻聴ならと願いながらも、足はそれを裏切るように、事実だと言うかのように、声の主の元に向かって走り続けた。
「サイーーー!!!」
扉の前に着くと、扉を叩き中に向かって叫んだ。
「そこにいるのか?サイ、いるなら返事をしろ!!」
「…やめっ!」
ほんの薄く開いた扉の中から聞こえた声に全身の血が沸騰する。
「開けろ!この扉を開けろ!!」
「ラ…イ様…ないで…来な…い…あーーーーー!!」
中で行われている事を考えないようにしても、頭の中ではあの時の父王の声と重なり、煮えたぎるような怒りが腹の底から湧き上がってくる。
「開けろ…ここを開けろっ!!」
開いている所に爪をかけた瞬間、ずずずっと扉が開き始めた。驚き手を離して扉から後ずさるようにして離れると、その隙間から白い物体が投げ捨てられた。
足元に転がったソレがサイの骸であると気が付いた時には、すでに扉は閉まり、しんとした静けさだけが廊下に佇んでいた。
皆が動けず、転がった骸に目が釘付けになる。
「わーーーーーーっ!!」
突如、誰かの発した絶叫がその静寂を破った。
「サイ、サイ!!」
私の止まっていた時間が動き出す。
サイの骸に近付くと、その名を呼びながら揺り動かした。
ソレは先程までのエネルギー溢れ、私と愛し合った美しい身体とは違い、骨に皮が一枚ついただけの無惨な姿だった。
「サイ…。」
いくら王家のものに愛されていても、やはり王家のものとは違う。
真後ろで声が聞こえ、振り返る。
先ほど閉まったはずの扉がほんの少しだけ開き、中から細く白い手が私に向かって伸びて来るのが見えた。
その手から逃れるように身を捩る。
すると私の横を通り過ぎて行った手が、私の近くにいた者にすっと近付くと、一瞬で扉の中に連れこんだ。
「や…やめろ…やめ…あーーーーーー!!」
再び絶叫が扉の中から聞こえ、隙間から白い物体が投げ捨てられた。
次こそは…
声と共に出てきた細い手から再び身を捩って逃れると、私の横を先程と同じように通り過ぎて行った。
「うわぁっ!!」
そして私の横を止める間もなく、人が扉の中に消え去って行く。
そして悲鳴が起こり、廊下に投げ捨てられていく骸。
「ちっ!王家の筋でないと、こんなものか…いくら食べても腹が満たされぬわ。」
重なり合う骸を前に、そしてサイを見つめる。
膝に置いたその骸を床に上着を敷いて寝かせる。
私がお前達の、そしてサイ、お前の仇を取る!!
ぐっと腹に力を込め、立ち上がった。
扉に向かって、震えそうになる声を張り上げた。
「私を…私を中に入れろ!私はこの国の王家の筋たる者。私を手に入れさせてやる。その代わり、他の者には手を出すな!約束しろ!!」
手にサイの指から抜いた指輪を持ち、ソレを薬指につけた。
それを握ったまま、扉の前に向かい歩き出す。
約束か…いいだろう。
まあ、お前次第だがな…
フフフと不敵に笑う声が耳元で聞こえた瞬間、ヒヤッとした冷気を感じ、体が勢いよく引っ張られた。
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