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翌日。
秋在は、生徒指導室に呼ばれた。
「今度はなにしたんだろう?」
「ヤッパリ、春晴くんってヤバイ奴だよ」
「最近はなにもしてない気がしてたけど、関わらないようにしよう?」
秋在のことを、クラスメイトは口々に噂する。
生徒指導室に呼ばれた秋在が教室へ戻ってきたのは、二時間目の授業中だった。
ガラッと開かれた扉に、クラスメイトが注目する。
「……」
教室に戻ってきた秋在の表情は、普段と同じく、無。表情からでは、生徒指導室でどんな話をされたのかは分からない。
隣に座った秋在を、冬総は横目で見る。……当然、目は合わない。
無表情のままノートを見る秋在を眺めて、冬総は『俺には関係ないか』と思う。
だが、こうして『俺には関係ない』と思っている自分は、決して拗ねているわけじゃない。……そう、冬総は何度も何度も自分に言い聞かせた。
* * *
その日の昼休みだ。
「──夏形、ちょっといいか?」
冬総が、生徒指導室に呼ばれたのは。
その頃の冬総は、まだ校則違反をしていなかった。髪の毛は黒色だし、ピアスだってしていない。成績がいいわけではなかったが、妙な素行が目立つ生徒でもなかった。
だからこそ、冬総は自分が生徒指導室に呼ばれる意味が分からない。
「えっ? ……なんですか、先生?」
胡乱気な目を向けると、教師は困ったように呟く。
「──春晴のことを、気にかけてやってくれないか?」
それは、あまりにも予想外の頼みごとだ。
冬総はすぐさま『どうして俺が』と反論しかけた。
……が、すぐに思い直す。
──『先生に頼まれたから』と言えば、クラスメイトだけではなく誰の前で秋在に話しかけても、変な目で見られることはないのではないか、と。
あまりにも幼稚で、打算的な考え。それでも冬総にとっては、なぜだか救いの糸に思えた。
「確かにアイツ、ちょっと気になりますよね。……分かりました。俺なりに、春晴を気にしてみます」
「本当か? すまんな、夏形」
「いえ」
快諾した後、冬総はすぐさま教室へ戻る。
「移動教室──……って、今日はないか。でも確か、明日はあったかもしれねェな」
きっと、朝から生徒指導室に行っていた秋在は普段の行動を注意されたのだろう。
それに対して、秋在がなんて答えたのかは想像できない。きっと、教師も理解できなかったはずだ。
それで、隣に座っている冬総に白羽の矢が立った。……そう考えるのが、妥当だろう。
内心上機嫌で戻ってきた冬総に、女子たちが素早く気付く。
「おかえり、夏形くんっ」
「どういう話だったの?」
「もしかして~? 冬総くん、悪いことしちゃった感じ~?」
秋在の時とは、大違い。女子たちは冬総を自分たちの席へ呼び、声をかけた。
雑な絡みに対し、冬総もてきとうな返事をする。
頭の中には『これで堂々と春晴に関われる!』と思い描きながら、冬総は視界の端に秋在を捉えた。
秋在はノートに向かって、クレヨンを使いながら絵を描いている。そんな姿を見られるだけで、冬総はなぜだか無性に嬉しくなった。
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