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2章【不誠実コントラスト】 1
制服のリボンを外し。
白いワイシャツ姿になった、秋在に対して。
冬総は……戸惑うことしか、できなかった。
(春晴が、言ってるのって……【そういうこと】だよな……ッ?)
盛大な勘違いなら、まだいい。
しかし、これが勘違いではないのなら?
――ただのクラスメイトには、どう頑張ったって戻れない。
「……な、んで。……何で、そんなこと、シたいんだ……?」
情けないくらい、声が震える。
冬総にとっては、理解し難い言動だったからだ。
けれど、秋在にとっては。
「皆が知ってることを、知らないのはイヤだって。……そう思うから」
なにも、おかしなことではなかった。
ベッドに座ったまま、秋在は冬総を見上げ続ける。
「大人と子供の境目に、ボクらはいる。そういうお年頃ってやつ。そしてボクは、子供寄り。だけど、キミは大人寄り。……そうでしょう」
いつもと同じ、なにを考えているのか分からない瞳。
「だから、ボクを引きずり上げてほしい」
――その視線に、迷いはなかった。
要望を淡々と伝えた秋在に対し、冬総は目に見えて狼狽える。
……それもそうだ。
そこそこ女子にモテてきた冬総でも……男に誘われたのなんて、初めてなのだから。
「春晴の言ってることが、よく……わかんねェ。……何で、俺なんだ……?」
性経験のあるクラスメイトなんて、冬総以外にもきっといる。
――なのに秋在は、冬総を選んだ。
その理由を、冬総は知りたい。
「『どうして』……? キミって、稀有なことを訊くんだね」
当然の疑問を投げかけているのに、まるで間違っているような気持ちになる。
それほど、秋在の瞳は無垢だった。
秋在は小首を傾げて、冬総を見つめる。
「――ナツナリくんに、引きずり上げられたかったからから、だけど」
冬総と秋在は、ただのクラスメイト。
先生にお目付け役を頼まれただけの、そういう間柄。
お互いに恋愛対象として認識していなかったはずだし、今後もしないはずだった。
それなのに、その距離感は。
「……変?」
秋在が持つ歪な【常識】によって、強制的に縮められた。
――『冬総だから関係を持ちたい』と。
秋在は、そう言ったのだ。
それが当然のことのように、あっけらかんと。
むしろそれ以外、どんな理由がありえるのか教えてほしいと言いたげな目で。
(ここで、俺が断ったら……春晴は、別の奴を選ぶのか……ッ?)
もしかしたら、素直に諦めるかもしれない。
――だけど、そうじゃなかったら?
(春晴が、他の男に……?)
関係を持つなら、冬総以外ありえない。
秋在の考えは、冬総にとって嬉しいことなのかどうか……分からなかった。
……しかし。
「……男は、さすがに初めてだ」
自分以外の誰かが、秋在を【大人】へ引きずり上げるとしたら。
そう考えると……虫唾が走るほど、不快だった。
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