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そして、翌日。
秋在が登校してきた。
(春晴……今日は、登校するんだな)
秋在がどういう理由で登校するのか、休むのか……。
冬総にはその規則性も、理由も分からない。
けど、今は込み入った話はできない。
いくら教師から面倒を見るよう頼まれていても、それは校内での話だ。
冬総はなんとなく挨拶もできず、視線を落とす。
すると、予想外にも。
「――何で昨日、返事くれなかったの」
秋在の方から話しかけてきたではないか。
不遜な態度で冬総の机に手を置き、正面に立った秋在が、冷たく言い放つ。
秋在にとっては、ただの事情聴取。
けれど、周りにとっては。
――ザワッ、と。
騒ぎ経ってしまうほど、聞き捨てならない話だった。
(春晴、お前……ッ! もうちょっと、周りの目を気にしろよ……ッ!)
異様にザワついた教室で、最も動揺している人物。
――それは、冬総だ。
秋在と、連絡先を交換したこと。
そして昨日、連絡をとっていたことも。
冬総は、話していなかったのだ。クラスの、誰にも。
――そしてできれば、知られたくなかった。
――好奇の目を、向けられるから。
「……ねぇ」
しかし、ただ一人。
秋在だけは、平常運転だ。
周りが、冬総と秋在の距離感に驚いていても。
冬総自身が、狼狽していたって。
秋在にとっては、等しくどうでもいいことなのだ。
「そ、その話……今じゃなくて、よくね?」
「何で」
冬総を見下ろす秋在は、冬総が話題を逸らす理由が分からない。
だからこそ冬総は、ザワザワと喧騒を帯びた教室内で……秋在にだけ聞こえるよう、呟いた。
「――周りの目が、あるだろ」
冬総にとっては、本心。
そして、最重要項目。
しかし当然、秋在には。
「――じゃあ、ボクらは周りから隠れて付き合わなくちゃいけないってこと」
――冬総の気持ちは、伝わらない。
声量を落とさず、秋在はハッキリと確認する。
――それが、冬総にとって最も望まない言葉だとしても。
「好き同士なのに? 付き合い始めたばかりなのに?」
秋在の言葉に、冬総は目を泳がせた。
周りの表情を確認する為だ。
冬総の動きに気付いた秋在が、顔を上げる。
周りが更にザワつく中、秋在は冬総から視線を逸らし……教室を見渡した。
――そして……冬総にとって最悪なことを、公言したのだ。
「――ナツナリくんはボクと付き合ってるから、他の人はちょっかいかけるなっ!」
叫ぶような、そんな声。
悲痛さも込められたような秋在の宣言に、教室が静まり返る。
(嘘、だろ……ッ! ふざけんなッ、最悪だ……ッ!)
変わり者の秋在と連絡を取り合っているだけでなく、交際もしていると知られたら。
冬総にとっては、最悪以外のなにものでもないのだ。
そして、秋在の【お願い】通り……その日は誰も、冬総に近寄らなかった。
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