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更に、翌日。
秋在はまた、学校を欠席した。
(アイツ……ッ! 好き勝手して、引っ掻き回して……なんのつもりなんだよ、マジで……ッ!)
冬総は昨日の朝以降、秋在と言葉を交わしていない。
無論、連絡も取り合わなかった。
そんなこと……できるはずが、なかったのだ。
秋在にとっては、些細なことでも。
冬総にとって、昨日のことは……最悪でしか、なかったのだから。
「ねっ、ねぇ、夏形くん……っ」
自分の席に座り、苛立つ冬総へ近付く人がいた。
冬総によく話かける、女のクラスメイトだ。
彼女たちは遠慮がちに近寄り、冬総に訊ねる。
「昨日の、朝の……あれって、本当なの?」
「冬総くんが、春晴くんと付き合ってるって……あれ」
「あの、春晴と? 本当に?」
声をかけられた理由は、予想通り。
秋在が放り投げた爆弾発言の、真相だ。
急激に口の中が渇き、冬総は口角すら上げられない。
(言葉が、出て……こねぇ、ッ)
こういった質問をされるのは、容易に想像できた。
勿論冬総は、脳内で何度も受け答えのシミュレーションだってしていたのだ。
しかし、実際に……戸惑いの表情を向けられると、言葉が出てこない。
――冬総を【異端だ】と言いたげな目が、怖かったのだ。
(俺が、誰と付き合ってたって……他の奴等には、関係ねェだろ……ッ)
こちらの都合も考えず、勝手に暴露されたことに対しては……絶賛進行形で、困っている。
けれど……冬総と秋在は、なにもかもが違う。
――だからこそ、冬総は秋在に惹かれた。
――だからこそ、どうしようもなく焦がれたはずなのだ。
脳内では、何度も何度も……肯定するシミュレーションを、していた。
――しかし……冬総はどうしたって、秋在になれない。
「――付き合ってるワケ、なくね? 男同士だし、そもそもあの春晴だぞ? ないだろ、普通に考えて……さ」
するりと、言葉が飛び出た。
と、同時に。
(――最低だ、ッ!)
許容し切れないほどの罪悪感が、冬総自身を襲った。
(俺、最低じゃねェか……ッ! なに、なに言って……ッ! 馬鹿かよッ、クズじゃねェかよッ!)
自分の体裁を守るため。
たった、それだけの……小さくて、ちっぽけなものを守るために。
――冬総は、嘘を吐いた。
誤魔化しでもなく、見栄でもなく。
ただ【保身】のためだけに、嘘を吐いたのだ。
そこに、秋在への配慮は……欠片も、無い。
(もしもこれが、逆の立場だったら……ッ?)
――これがもし、春晴に言われたのなら?
――『ナツナリくんと付き合っているわけない』と、春晴が言ったとして。
――それで俺は、笑ってやれるんだろうな?
そんな自問自答を、瞬時に繰り出し。
冬総は慌てて、浮かんだ言葉を全て……思考回路の海に、溶かした。
(春晴が嘘を吐くとか、想像できねェ……)
なんの足しにもならない保身のために、嘘を吐く秋在が想像できなかったから。
だから冬総は、自問自答から逃げた。
……その結果。
冬総は、自分の浅ましさに……言い逃れできないほどの羞恥心が、込み上げてきた。
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