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 放課後になっても……冬総の気は、晴れない。  自分の浅ましさに、胸が押し潰されそうだった。  それでも冬総は、秋在にメッセージを送る。 『学校では、付き合ってることを内緒にしてほしい』  学校を休んだ秋在がなにをしているのか、冬総は当然、知らない。  けれど、思っていたよりも早く、秋在からのメッセージが届く。 『なんで』  想定していた通りの内容だ。  冬総は、かじかんでいるわけでもないのに……指を、スムーズに動かせなかった。  その理由には気付いていながら、メッセージを返す。 『変な目で見られるから』  画面上に、秋在がメッセージを確認したことを知らせる【既読】の文字が浮かぶ。  なのに今度は、返事がこなかった。  その間に耐えかねて、冬総はメッセージを連投する。 『お前だって、嫌だろ? 男と付き合ってるなんて周りに思われるの』 『お互い、学校では今まで通りの距離感でいようぜ? 俺はその方が絶対いいと思う』  ――いったい、誰に向かっての詭弁なのか。  答えを、冬総はもうとっくに……知っている。  ――これは、自分を正当化する為だけの、ドロドロに汚れまくった、綺麗事。  言葉面だけを見たら、秋在の心配をしているようにも見えるかもしれない。  そう見えるようにと、冬総は無意識に考え……言葉を、選んだ。  ――どこまでいっても、それはただの【逃げ】でしかないが。 (春晴、返事よこさねェ……)  自分勝手なメッセージを送ったくせに、返事が待ちきれないだなんて。  本当に身勝手なのは、どっちなのか。  そう考えた直後。  冬総が持つスマホの画面に、新着メッセージの通知が表示された。 『うちきて』  それは流石に、予想外の返信だ。  呆れられるか、怒られるか……最悪、別れを切り出されるか。  冬総は、そんな予測を立てていた。  けれど秋在は、そのうちのどれも感じさせない。 (確かに、文章でやり取りしてたって平行線だよな……)  自分と秋在の考えに相違があることは、冬総だって分かっている。 『分かった。家近くなったらまた連絡する』  秋在の考えを推測し、冬総は同意した。  メッセージを送った後、冬総は急いでバス停に向かう。 (なんて言おう……なんて話せば、許してもらえるんだろう……)  秋在が望まないことを要求してしまっている自覚は、あった。  だとしても……直接の対話から逃げてしまおうという発想は、考えつかない。  冬総は気を重くしながらも、バスに揺られ続けた。  春晴家の前に着き、冬総はすぐにメッセージを送ろうとした。  すると、それよりも早く……秋在からメッセージが届く。 『かぎあいてる』  誘われるがまま、冬総は秋在の家へ入った。  鍵を閉め、冬総はうろ覚えのまま……秋在の部屋へ向かう。 (一発殴られる覚悟くらいはしておこう)  罪悪感に足を引っ張られながら、冬総は目的地の前に立つ。  一度だけ深呼吸をして、冬総は扉を……開けた。  すると。 「……は、ッ?」  目に飛び込んできたのは、予想外の物。  ――カッター。  ――包丁。  ――それ以外にも、十本ほどの凶器。  ベッドに座って窓の外を見ていた部屋の主が、冬総へと顔を向ける。  小柄なその男は、大きな鉈を……抱えながら。 「――常識、壊そう」  いつもと同じ、ローテンションな声で。  なんの感情も読み解かせず、冬総を見つめた。

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