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服を着て、二人はベッドに腰掛けていた。
「俺、春晴と別れたいワケじゃないんだ。春晴とは、恋人でいたい。……だけど、まだ……誰かに胸を張って、堂々としていられる勇気が……ない」
男が男を好きだと、簡単にカミングアウトできるわけがない。
ましてや、人の目を気にするようなタイプなら……尚更。
「あ……勘違いしないで、ほしいんだけど……それは、春晴のことが恥ずかしい存在だとか、春晴だから言いたくないとか、そういうワケじゃねぇから! いや、それが全く違うってワケじゃないけど……なんて言うか……」
「うん、大丈夫」
「……ごめんな、春晴」
秋在がコテン、と。冬総の腕にもたれかかった。
それだけのことが、何故だか嬉しくて仕方ない。
「俺は、お前みたいに……強くなりたい。ただ、俺はまだ……好奇の目を、向けられるのが。……周りの目が、怖いんだ……ッ」
カッコ悪くて、情けないのは分かっている。
秋在にできることを、冬総にはできない。
それを打ち明けるのも、説明するのも……恥ずかしくてたまらなかった。
それでも冬総は、もう……嘘を吐きたくなかったのだ。
「……わかった」
その気持ちが届いたからなのかは、分からないけれど。
「いいよ。……ボクとナツナリくんは、同じ人間じゃない。だから、いいよ。ナツナリくんがナツナリくんだから、ボクはナツナリくんをいいって言う」
秋在はそう言って、小さく笑った。
「……怒らない、のか? 俺……自分で言うのもなんだけど、結構最低なこと言ってるぞ?」
「どうしてボクがキミに怒るの? ボクとキミは違うんだから、怖いものが違ったって怒る理由にはならないでしょう」
冬総の腕から離れて、秋在はポツリと続ける。
「ボクがイヤだったのは、キミがボクを決めつけたことだけだよ」
――なんのことだ?
そう訊こうとして、冬総はすぐに気付いた。
『お前だって、嫌だろ? 男と付き合ってるなんて周りに思われるの』
それは……冬総が秋在に送ったメッセージだ。
「……ごめん、本当に」
「もういいよ。ボクとキミは違うから、きっとボクも……キミがイヤがることをした。……ボクも、ごめん」
「いや、春晴が謝ることはなんにもない……ッ!」
秋在の肩をしっかりと掴み、冬総は秋在を見つめた。
そしてふと、他の謝らなくてはいけないことも思い出す。
「……俺、学校で……お前のこと、否定した。……それも、ごめん」
「ナイショにしておけばいいのに、言うんだね。ボクが怒るかもって不安なくせに、変なの」
「春晴に嫌われない為なら、全部言ってちゃんと謝る」
「ヒミツにしておいたらボクにバレなかったのに? ヤッパリ、変なの」
秋在は再度、笑った。
「いいよ。……自分と違う人はね、受け入れられないよ。畏怖して、敬遠して、嫌悪するのは人の本能だから」
「それは、お前もか?」
不安げに、冬総は秋在を見る。
「俺とお前は、全然違う。……それでもお前は、俺のこと……受け入れ、られるのか?」
「うん」
予想外にも、秋在は即答した。
「ボクと違うから、ボクはナツナリくんを受け入れられるよ」
さっきまで言っていたことと、矛盾している。
結局……冬総は秋在を理解なんてできない。
それでも。
……だからこそ。
「――春晴、好きだ。……絶対に、いつか……胸を張れるような、そんな俺になる。……なって、みせるから……ッ」
――冬総は、秋在のことが好きなのだ。
決意を込めた冬総の顔を見て、秋在はただ短く。
……「変なの」と言って、笑った。
2章【不誠実コントラスト】 了
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