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案の定。
……昼休み。
位置情報を頼りに、秋在を追いかけたら。
――犯人を、特定してしまった。
「――いい加減、夏形くんと付き合ってるって妄想……やめてくれた?」
犯人は、冬総の想定通り。
いつも冬総に話しかけている、女子の集団だった。
人目につかない校舎裏で、秋在は数人の女子に囲まれている。
「サッサと『付き合ってません』って言いなさいよ」
「夏形くんの迷惑とか、アンタ、考えてないワケ?」
冬総は思わず、身を隠す。
――助けに行かなくては。
その気持ちは、当然あった。
――だけど、なんて言って止めに入ればいい?
臆病で弱虫な冬総には、かざせる武器がなかったのだ。
しかし、秋在は違う。
「――そろそろ、都合のいい妄想をボクたちに押しつけるのはやめて」
数人の女子に囲まれても、怯んではいなかった。
いつものローテンションな声と、同じ。
……いや。
それ以上に低い声で、秋在は女子に言い放つ。
「ナツナリくんが心配してくれて、結構嬉しかったけど……もう、こういうつまんない猿芝居に付き合うの……飽きた」
「……は?」
秋在の目から、光が失われている。
ただならぬ気配に、女子集団は息を呑んだ。
……それは、盗み見をしている冬総も同じだった。
秋在はズボンのポケットに手を入れ、呟く。
「――ボクの友達を傷つけたんだから、友達の代わりにボクが仕返ししたっていいよね?」
冬総は、眉を寄せる。
(『友達』って……なんのことだ?)
そう冬総が思うと、同時に。
――秋在は。
――ポケットから。
――ハサミを、取り出した。
その様子を見て、冬総は理解する。
(まさか『友達』って……ノートのことか?)
理解すると同時に、確信した。
――このままでは、危険だと。
堪らず、冬総は口を開いた。
だが、声を発するよりも先に。
――シャキン、と。
鋭く、冷たい音が……校舎裏に、小さく響いた。
「…………ひ、ッ」
一番、秋在に近かった女子。
その女子の、前髪が。
秋在のハサミによって、切られたのだ。
「逃げないでよ。ボクの友達は、無抵抗のままバラバラにされたんだから」
秋在がもう一度、構える。
状況を理解したのは、冬総だけじゃなかった。
「……こ、のぉおっ!」
「なによ、アンタ!」
いくら武器を持っていても、秋在は小柄だ。
下手をすれば、女子よりも小さい。
しかも、秋在は一人だが……相手は、数人。
華奢で小柄な秋在一人を押さえつけるなんてこと、造作もないのだ。
「……っ」
腕を掴まれ、秋在の手からハサミが奪われる。
明らかに、女子たちは冷静ではなかった。
「ノートだけじゃなくて……アンタの髪も、切り刻んであげる!」
ハサミを奪った女子が、叫ぶ。
秋在に向かって、ハサミの刃先が、向けられた。
――しかし。
「――はっ、ぐ……っ!」
――秋在は。
――刃先を噛んで、攻撃を止めた。
敵意を剥き出しにしながら、秋在はハサミを噛む。
――このままでは、怪我人が出るかもしれない。
そう思うや否や。
「――やめろッ!」
――冬総は。
――身を、乗り出していた。
そこには。
体裁や保身なんてものは、なかった。
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