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話題の人物。
冬総が現れたことにより、女子は驚いていた。
秋在は冬総の登場を受けて、噛んでいたハサミから口を離す。
それを好機と見た冬総は、すぐにハサミを奪い取る。
「春晴、怪我は……ッ?」
秋在はゆっくりと、首を横に振った。
口に怪我がないことを確認して、冬総は女子を振り返る。
「ヤッパリ……お前たちが、春晴をいじめてたのか……ッ」
その表情は。
好奇の目を向けられることに対する怯えは、一切……なかった。
冬総に睨まれた女子たちは、しどろもどろになって言い訳を始める。
「い、いじめてたわけじゃ……っ!」
「だってソイツ、夏形くんと付き合ってるってウソ言うのよっ!」
怯える女子と、開き直る女子。
冬総は、背後に隠した秋在を見つめた。
「…………」
秋在は、女子を睨んでいる。
今にも……噛みつきそうな勢いだ。
おそらく、冬総が割って入らなかったら……秋在はこの場にいる女子全員に、怪我をさせていただろう。
そうしないと、治まっていなかったと思われた。
秋在をこうしたのは、秋在自身だけではない。
――冬総だって、同罪だ。
だからこそ、冬総は。
「――ごめん」
――秋在の肩を、抱いた。
「――嘘を吐いていたのは……俺、なんだ」
それは、恋人を守るヒーローの声にしては……あまりにも、弱々しい。
「――本当は、俺……ッ。……春晴と、付き合ってる」
心臓が、早鐘を打つ。
――痛い。
――苦しい。
けれど、抱いた肩の温もりのおかげで……怖くは、なかった。
「春晴は、変わってる奴だって言われてて……そもそも、男同士だ。だから、絶対に変な目で見られるって分かってて……それが、ずっとずっと……怖かった」
女子からすると、冬総はいつも優しくて……【普通の男】だっただろう。
――だからこそ【普通に】愛された。
――だからこそ【普通に】信頼されていたのだ。
その姿は……冬総が、望んで得たもの。
……望んで、作ったものだ。
「夏形、くん……っ?」
「そんな、ウソ……だよ、ね?」
女子の動揺は、冬総に厳しい現実として、突きつけられていた。
皆が思う【夏形冬総】を、冬総自身が……壊そうと、している。
それでも……秋在の肩を抱く冬総の手は、震えてはいなかった。
冬総はゆっくりと、首を横に振る。
「嘘じゃない、本当だ。……俺は、春晴と付き合ってる。……だけど今も、物珍しい目で見られるのは……怖い」
もう一度、秋在の肩を……強く、抱いた。
秋在は冬総を、黙って……見上げている。
――それだけで、冬総は良かった。
「――だけど、秋在を守れないこと以上に怖いことなんて……俺にはきっと、ないんだ……ッ」
初めて口にした、恋人の名前。
それは不思議と……口に、馴染んだ。
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