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 そして、放課後。 「――ごめん」  秋在の部屋に入るや否や。  冬総は秋在を、強く……抱き締めた。 「今まで、本当に……ごめん。ごめん、秋在……」  抱擁だけでは足りないのか、謝罪の言葉も浴びせながら。  突然抱き締められた秋在は、当然……キョトンとしている。 「どうして謝るの? なにも悪いことはしてないのに」 「秋在を、傷つけたから……ッ」  冬総の言い分が、秋在には理解できないのだろう。  それでも冬総は、秋在に謝りたかったのだ。 「さっき……秋在は俺をいい人みたいに言ってくれたけど、実際は違う。俺は、優しさで嘘を吐いていたんじゃない。……俺は、自分の保身だけで……秋在と付き合ってないって、嘘を吐いた」  ――ただただ、自分が『正常だ』と思われるために。  ――秋在への迷惑を、一切考慮せず。  秋在を抱き締める腕に、冬総は力を込めた。  そうすると、秋在がくぐもった声を漏らす。 「――これからは?」  秋在の声に。  冬総は、秋在の顔が見えるように、距離を開く。 「これからは、ウソ……吐くの?」  責めている目では、ない。  かと言って、悲しんでいる目でもなかった。  ――純粋な、興味。  夏形冬総という男が、今後……どう振る舞って、どう生きるのか。  そこに対する、曇りのない疑問をたたえた目だ。  大きなクリーム色の瞳から、冬総は目を逸らさない。  ハッキリと、真っ直ぐに。 「――吐かない」  冬総は、答えた。 「俺はこれから、嘘を吐かない。秋在を一番大切にするし、秋在を好きな俺も大切にする。……ずっと、秋在と一緒にいられる俺を。俺と一緒にいてくれる秋在を、大事にしたい」  お互いの顔を、しっかりと見つめたまま。  冬総は茶化す様子を見せず、真剣に伝える。 「秋在、大好きだ。これからは……これからこそ、秋在を守りたい。秋在を、絶対に守る。一番大切にする。だから……だから俺と、付き合ってほしい」  秋在の表情は、感動している様子ではない。  怒っているわけでも、喜んでいるわけでもなく。  いつもと同じ……無表情に近い表情だ。 「ボクはこれからも、変わらないよ。きっと、フユフサはボクを理解できない。……そしてボクも、フユフサのことを分からないままだと思う」  そこで言葉を区切り。  秋在がおもむろに、冬総へ抱き着く。 「――それでも、ずっと……変わらず、一緒にいてほしいな」  秋在が変わってしまったら、冬総はどう思うのだろう。  きっと……それは悲しいのかもしれない。  だけど、それでも……。  ――冬総は変わらず、秋在が好きなままなのだろう。  そのことに気付いているのか……秋在は『変わらない』と言ってくれた。  冬総以外の人からすると、些細な言葉だったかもしれない。  だが、その言葉は。  ――冬総が秋在に惚れ直すのには、十分すぎる言葉だ。  小さな体を、冬総は抱き締め返す。 「……こっちの台詞だっつの」  だらしなくゆるんだ口角を、見られないために。

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