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女子との事件から、一晩明け。
冬総はガラリと、教室の扉を開いた。
その音に、教室にいた生徒は振り返る。
そして……全員が、驚いた。
「――夏形くん! その頭、どうしたの!」
女子の声に、他の生徒も頷く。
冬総は自分の頭を触りながら、照れ臭そうに笑った。
「――なんとなく」
冬総の地毛は、黒。
しかし、今の冬総は。
――見事な、金髪だ。
正直……髪の毛を染めたことに触れてくる女子はいないと。そう、冬総は思っていた。
なんと言っても、昨日の今日だ。
女のクラスメイトから声をかけられるだなんて、考えられない。
なのに女子は、変わらず冬総に近寄り、声をかけてきたのだ。
「えぇ~! ビックリした~!」
「でもでも、メチャクチャ似合ってるよ!」
「ねぇ! 一緒に写真撮ってよ!」
その反応は、予想していなかった。
「何で、普通に話しかけてくるんだ……?」
てっきり、秋在とのことがバレて……気持ち悪がられているのではと。
距離を置かれるのではないかと、冬総は覚悟していた。
しかし、女子の反応は違う。
「確かに、ビックリはしたけど。……でも、私たちと話してたときも、夏形くんは春晴くんと付き合ってたんだもんね?」
「じゃあ、冬総くんは冬総くんだよ!」
「むしろ、カミングアウトしづらい空気にしちゃってたのって……アタシたちの方? って感じだし?」
それは、想像していなかった言葉。
けれど。
シンプルに考えてみたら、なにもおかしくはない言葉。
思わず、冬総は感動してしまう。
(なんだよ、ソレ……。メチャクチャ、簡単なことだったんじゃねェか……)
一人で考えたって、周りが思う自分なんて分かるはずもない。
周りにどう思われるかは、やってみないと分からないのだ。
秋在はそのことに、誰よりも早く気付いていた。……単純に、考えたことがないだけかもしれないが。
それでも、冬総にとってこの反応は……一番、嬉しいものなのかもしれない。
感動により黙り込んだ冬総に、女子が言葉を続けた。
「でも、春晴くんと話すのは……まだちょっと、怖いかも……」
いじめを始めたのは女子とはいえ、刃物を向けたのは秋在だ。
冬総の為にと凶器を沢山用意する秋在を、友好的に思えるはずがないだろう。
落ち込んでいるような、申し訳無さそうな顔をしている女子を見て、冬総は笑みを浮かべた。
「別に俺は、誰かが秋在と仲良くなってくれたらなって気持ちで、秋在と付き合ってるワケじゃねェよ」
――仲良くなられたら、それはそれで面白くないし。
という言葉は、なんとか飲み込んで。
そんな冬総を見て、女子は一瞬だけ驚く。
「……なんか、夏形くん……カッコいいね」
「うん……っ。今までもカッコ良かったけど、更にカッコ良くなったって感じ!」
「うんうん! 金髪も似合ってるしね!」
矢継ぎ早に女子から褒められていると、教室の扉が開いた。
開けたのは、秋在だ。
秋在の登校に気付いた冬総は、すぐさま秋在に声をかけた。
「おはよ、秋在」
「……金髪」
「あぁ、金髪にしてみた。……変か?」
「ううん」
秋在が、小さく笑う。
「カッコいい」
人と違うことは、駄目なことではないだろう。
人と違うことを恐れ、隠して、嘘を吐くことの方が……何倍も、駄目だ。
「サンキュ、秋在。……なら、当分はこのままにしとく」
「うん、カッコいい」
そのことに気付けたのは、秋在のおかげ。
冬総は秋在に、優しい笑みを向けた。
余談だが。
頭髪のことは、当然……教師に注意をされた。
3章【一直線ネゴシエーション】 了
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