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4章【不時着サプライズ】 1

 カミングアウトから、二週間。  冬総は秋在と話していても、奇怪な目を向けられなくなった。  始めは、遠巻きに眺めてくるクラスメイトがいたけれど……噂の力は凄い。  気付いた時には、校内でも公認のカップルとなっていたのだ。  そして……教師から目を付けられた冬総は、髪の毛を染めるだけでは飽き足らず、ピアスの穴も開けた。  少しずつ自分を変えていく冬総だったが……。  そんな冬総に、特大の事件が舞い込んできた。 「――えっ。秋在……来月、誕生日なのか?」  教室で秋在と一緒にお昼ご飯を食べていた冬総が、驚く。  思わず、箸でつまんでいたお米をこぼしてしまうほどだ。  秋在はチョココロネのチョコだけを吸いながら、頷く。 「うん。十月三十日」  秋在のことを一番理解したいと思っている冬総にとって、誕生日というステータスは知っていて当然。  それなのに、どうして今まで訊かなかったのか……。  冬総は内心で自分を責めながら、なんとか笑みを浮かべた。 「じゃあ、誕生日は家でケーキとか食べるのか?」 「うん、作るよ」 「……ん? 秋在が作るのか?」 「うん」  秋在はチョココロネから、チョコを吸いつくしたらしい。  パンをモソモソと齧りながら、秋在は続ける。 「お母さんがボクを産んでくれて、お父さんが一生懸命働いて育ててくれたから。春晴家の誕生日は、両親への感謝祭」 「両親への、感謝祭……」 「お父さんとお母さんの誕生日には、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行く。そこでも、ケーキはボクが作るよ」  ここまで自分のことを話してくれる秋在は、珍しい。  当然、秋在のことならなんでも知りたい冬総としては、嬉しくも楽しい会話だ。  ……多少なりとも、驚いてはいるが。  冬総は気を取り直して、パンを齧る秋在を見つめた。 「あのさ、秋在。……誕生日、俺とデートしないか?」 「…………デー、ト」 「そう、デート。行きたいところ、どこでも付き合う」  恋人同士の誕生日なら、世間一般ではこういうものだろう。  ……当然、秋在にとっては理解しがたい風習ではあるが。  秋在はパンを頬張った後、じっくりと逡巡する。  そして、ポツリと答えた。 「……今は、登山したい。……けど、その日も同じかは、分かんない」 「秋在らしいなァ」 「ボクらしい?」  とりあえず、デートをすることに対して、秋在は異論がないらしい。  そのことに安堵しながら、冬総は口の端についたチョコを、秋在に報告もせずに指で拭う。  そのまま指を舐める冬総を見て、秋在は若干、目を丸くしていた。 「……フユフサ、好き」 「お? お、おう。さんきゅ」  ――どうしてこのタイミングで?  とは思ったが、好意を伝えられて不快になるはずがない。  冬総は笑みを浮かべて「俺も好きだ」と返答した。  ……もう一度言っておくが、ここは教室である。  こんなやり取りを二週間も続けられたら、公認カップルと思われて当然だろう。  二人のやり取りを気にする生徒は、この教室にはもう……いなかった。

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