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 冬総は、考えた。  心の底から愛する秋在を、心の底から喜ばせるため。  自分にはいったい、なにができるのか。  そうした結果……冬総は、決意したのだ。 「――秋在、ごめん。今日からちょっとの間、一緒に帰れない」  秋在の誕生日を知った、その翌日。  冬総は朝一番に、秋在へそう伝えた。  誰かに隠れて付き合うことをやめてから、冬総は秋在の気分次第で一緒に帰るようになっていたのだ。  秋在が『一緒に帰ろう』とお願いしてきたら、冬総は絶対に断れない。……秋在至上主義だからだ。  だからこそ、先手を打った。  ――野望のために。 「短期のバイトを始めたんだ。……だから、ごめんな?」  鞄からチョココロネを取り出す秋在が、冬総の顔も見ずに訊ねる。 「短期って、どのくらい? ……三日?」 「……一ヶ月、です」 「ボクとは違うんだね」 「うっ。……ご、ごめん……」  別に怒られているわけではないのに、冬総は落ち込んだ。  朝ご飯を食べていなかったのか、秋在はチョココロネを食べ始めた。 「いいよ。分かった」  昨日はチョコを吸って食べていたのに、今日はちぎって食べている。  ……しかも、やけに細かく。  まるで作業のようにパンをちぎる秋在が、怒っているわけではない。……と、冬総は思いたかった。 (『一ヶ月』って言ったら、来月の誕生日プレゼントを買う為のバイトだって……さすがにバレる、よな……?)  冬総の、野望。  ――それは、秋在がビックリするような誕生日プレゼントを用意すること。  ――そしてできれば、サプライズで用意したい。  それは、男として……彼氏としての、小さなプライドだ。  秋在はちぎったパンを、チョコにつけて食べている。 「短期の。……バイト、頑張って」 「さ、さんきゅ……」  なんとなく、刺々しい言い方な気もしたが。  追及したら、それこそ秋在の機嫌を損ねるかもしれない。  気のせいだろうと思い込み、冬総は自分の席に座った。  それから、放課後。  バイト先に向かうべく、冬総は立ち上がった。  教室を出て、生徒玄関で靴を履き替える。  若干の緊張感を抱きながら、冬総はバイト先に向かって歩いた。  ……が、歩みを止める。 「……秋在? 帰り道、逆だぞ?」  秋在が、後ろをついて来ているのだ。  一定の距離を保ちつつ、秋在は冬総の後ろに立っている。  振り返った冬総を見上げて、秋在は当然のように答えた。 「バイト先、聞いてない」 「……あ。そ、そっか。……じゃあ、一緒に行こうか?」 「うん」  冬総のバイト先は……高校から徒歩圏内にある、普通のコンビニだ。  わざわざ教えるほどのバイト先ではないが、これが逆の立場だったら是が非でも知りたい。 「……手、繋いでもいいか?」  秋在と一緒に帰れなくなって寂しいのは、むしろ冬総の方である。  貴重な時間を、有意義にしたい。  秋在が頷いたのを確認した冬総は、バイト先であるコンビニまで、手を繋いだまま向かう。  そしてバイト先まで案内すると、秋在は一度だけ、頷いた。  そのまま、なにかに納得したのか。  秋在はなにも言わず、自宅へと帰って行った。

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