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 次の週も。  冬総はできる限り休まず、シフトを入れた。  秋在の誕生日を迎えるまでに、できるだけ多くの収入が欲しい。  今まで、冬総には彼女がいたことだってある。  しかし……誕生日というイベントを気にはしても、今ほど重視したことはなかった。  ――それだけ、冬総にとって秋在は特別。  中学生の頃、冬総は新聞配達のアルバイトをしたことはあったが……接客業は、今回が初めて。  想像以上に、疲労があった。  しかし。 「フユフサ、おはよう」  学校で、秋在に会えたなら。 「秋在、おはよ」  たったそれだけで、ヒットポイントは上限を突破して回復する。  我ながら単純だと、冬総は気付いているつもりだ。  しかし、それが今の夏形冬総なのだから……仕方ない。  バイトを始めて、二週間。  あれから……秋在はコンビニに、来ていない。  冬総の頑張りを、陰ながら応援してくれているのかもしれないが。  ……ほんの少しの寂しさが、冬総の中にはあった。  だが、なんと言っても秋在のため。  冬総は、今日も今日とて……バイトに精を出していた。  そんな、夜のこと。 「夏形くん、ちょっといい?」  秋在のことを恋人だとカミングアウトした先輩が、冬総に声をかけてきた。  なんだか、ちょっとだけよそよそしい態度だ。 「はい。……どうしましたか?」  ――もしかして、やる気が空回りしてしまったのか。  ――自分は、大きなミスをしていたのかもしれない。  そんな不安を抱えながら、冬総は先輩に近付いた。  けれど……先輩の口から伝えられたのは、お叱りでもクレームでもない。 「裏口にいる子って……確か、夏形くんの彼氏だよね?」 「えっ! 冬総さんってホモなんですか!」  近くにいた別の先輩が、驚いたように冬総を見ている。  だが、冬総は気にしない。 「ホモなんじゃなくて、運命という言葉に意味をくれた相手が、たまたま秋在っていう男だっただけです。……って、裏口ですか? 何で秋在が、そんなところに?」 「理由までは分かんないんだけど……ちょっと、行ってきてくれるかな?」 「勿論です。……ちょっと、外しますね」  返事をした冬総は、慌てて裏口へ向かった。 「……冬総くんのセリフ、聴いてた~? なにアレ、カッコ良すぎない~?」 「僕も最初は驚いたよ。……でもさ。あんなに堂々とされたら、男同士ってことに違和感持ってるの、馬鹿らしく思えてくるだろ?」 「分かるわかる~っ!」  そんな先輩二人の会話には、全く気付かず。 「――秋在ッ!」  冬総は急いで、裏口の戸を開けた。  そこに座っていたのは、先輩の証言通り。  ――秋在だった。  座り込んでいる秋在は、リードと首輪を手に持っている。 「……秋在? なにしてるんだ……?」  犬の散歩。  ……だとしたら、首輪から外れている。  鼻先を真っ赤にした秋在は、自分を見下ろす冬総を見上げた。 「――空気と散歩」  どうやら、散歩という考えは合っていたらしい。  ……だが。 (マジで、なにしてるんだ……?)  秋在のしていることが……冬総には、分からなかった。

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